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新米ヘッドハンターの物語『引き抜き屋』がドラマ化~原作者・雫井脩介インタビュー

取材・文=大矢博子

2019年09月02日 公開 2019年09月02日 更新

新米ヘッドハンターの物語『引き抜き屋』がドラマ化~原作者・雫井脩介インタビュー


 

「岐路に立つ人間の心情を、自分と重ねて読んでほしい」

『犯人に告ぐ』『検察側の罪人』などで知られる雫井脩介さんが、一人の女性が新しい分野の仕事に挑戦するビジネス小説を生み出した――。

父親が経営するアウトドア用品メーカーに勤務する鹿子小穂は、社長令嬢ということで若くして取締役に。順風満帆のはずだったが、思わぬ出来事を機に会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのは、ヘッドハンティング会社を経営する並木。小穂は新米ヘッドハンターとして様々な経営者と会い、仕事とは何かを学んでいく……。

ヘッドハンターの目を通して経営、仕事、家族、そして小穂の成長を綴った『引き抜き屋』の著者・雫井脩介さんに、お話を伺った。

※本稿は、PHPの小説・エッセイ文庫『文蔵』2018年3月号に掲載したものです。

※本作品は、松下奈緒主演でドラマ化が決定、11月よりWOWOWプライムにて放送されます。
 

雫井脩介 PROFILE
1968年愛知県生まれ。専修大学文学部卒。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。04年に『犯人に告ぐ』を刊行、翌年には第7回大藪春彦賞を受賞し、ベストセラーとなる。主な著書に『検察側の罪人』『望み』『仮面同窓会』『銀色の絆』などがある。

 

人生の岐路に立つ人と、岐路に関わる人々のドラマ

──ヘッドハンターを小説にしようと思われたきっかけから教えて下さい。

雫井 PHPさんで『銀色の絆』を出したあと、次は何をやろうかと編集者さんと相談してたんですね。いろいろ案はあるものの、どうも広がらないなあと思っていたとき、その人が世間話で「実は僕のところにヘッドハンターから電話が来まして」と。もし興味があれば、どういう業界なのか詳しい話を聞いてみますよということだったんですが、ヘッドハンターならいろんな企業を相手にした話が作れる、話の多様性が生まれる、連作にしたら面白いんじゃないか……と思ったのが始まりですね。

──取材もされたんですか?

雫井 ヘッドハンター側に業界のことを取材しました。ヘッドハンターにはそれぞれ担当分野があって、金融などは外資もひしめいていて稼ぎも大きい業界なので、花形と言ってもいい世界みたいです。ただ、金融となると、その世界を僕が理解するのも読者に伝えるのも大変なので、もっと身近なメーカーや小売業界を中心にした話にしました。またそれはそれで、企業名や商品名を一つ一つ考えるのが大変だったりしたんですが(笑)。

──企業だけでなく、物語に登場するヘッドハンターたちも個性的ですし、話も家族小説からコン・ゲームっぽいものまでバラエティ豊かです。

雫井 実際にはもちろん優秀な方が多いんでしょうけど、主人公の小穂をいろんな人と競わせたいし、いろんな人と出会わせたい、というのがまずあったんです。成功ばかりだと面白くないから、挫折させてみたり、いろんな人間が絡み合う中でいつの間にか落ち着くところに落ち着いたり。引き抜きの目的も、勢いのある会社がさらに業績を伸ばすためのものもあれば、社長が老齢なのに後継者がいないから頼むケースもある。ヘッドハントする側も頼む側もいろいろで……要は、いろんな話が書ける、というのがヘッドハンターに決めたいちばんの理由です。

──主人公を新米の若い女性にした理由は何なんでしょう?

雫井 わかりやすく頑張っている人間を書きたかったんです。わかりやすく成長していく、っていうのかな。その上で、挫折しても絵になるタイプの人間を考えたとき、小穂みたいなキャラクターがいいんじゃないのかなと。ヘッドハンター業界って、女性のヘッドハンターが強いそうなんですよ。一番稼いでるヘッドハンターは女性なんですって。エグゼクティブ層はまだまだ男性が多いので女性の方が当たりがいいんでしょうね。それに五十代が中心で、若い人ってのがそもそも少ないらしいんですね。でも新人がいちから頑張っていく姿を見せるには、五十代よりも若い方がいい、というのが理由ですかね。

──引き抜きのドラマ以外にも、小穂の実家の問題も出てきますし、銀座のアルバイトやアイドルのコンサートなど、意外な場面が出てくるのも楽しいですね。

雫井 相手企業とヘッドハンターだけの話にするのも広がりがなくなっちゃうんで、主人公にそういう背景を持たせたり、銀座のクラブでアルバイトさせたり……場面転換に変化を持たせることは意識しました。また、ヘッドハンターには、エリートに見えてどこか屈折した人も多いという話も聞いたので、アイドル好きというようなキャラ設定で、それをエキセントリックに際立たせてみたりもしました。

──雫井さんご自身は、もし引き抜きの誘いがあったらどうされますか。

雫井 うーん、僕自身は簡単には考えないと思いますけど、これ自体は、個人個人がそのとき持っている事情に左右される問題だと思います。新しい環境で自分を試したいという人もいれば、育ててくれた会社に対する裏切りだと感じる人もいる。一旦受けても土壇場でやめる人もいるそうです。社長としてヘッドハントされるプロ経営者と呼ばれる方々がいますが、毛色の違う会社に行くってどういう感覚なのか、僕もはじめはわからなかった。そういうプロ経営者のひとりに今回お話を聞けたんです。すると、チャレンジだそうなんですね。そういうふうにいろんなタイプの人がいて、そこにドラマが生まれる。そして、そんな人たちに働きかけるテクニックをヘッドハンターは持っているわけで、それがヘッドハンターが必要とされる理由でもありますよね。

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