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ひふみんが語る“最後の日”…引退会見が1週間後だった「本当の理由」

加藤一二三(将棋棋士)

2019年10月30日 公開 2022年03月04日 更新

 

タクシーの止まる音を聞くのが嫌だった家族たち

勝負は、つねに家族とともに挑んでいたといってもいいと思います。

対局の前の日は、妻が食事の用意をしてくれますし、対局の日は、妻は基本的に外出はしません。家で祈っているわけですよ。

基本的に勝負の仕事はどの仕事も大変なんだけれども、夫人が対局の勝ち負けを心配するあまり、対局の日は胃が痛くなったということを語っているライバル棋士もいました。

対局の前の日は、ベストコンディションにもっていくために、妻や家族はいろいろと努力をし、対局の日は、戦っているわけですから、家で祈っている。ポルトガルでは、漁師の夫が漁に出ている間、家に残された妻たちは、ろうそくを灯して無事を祈っていたという話を思い出します。

どの仕事もそうなんだけれども、やはり長年、苦楽をともにしてきている夫婦なので、負けたというのを最初に報道陣に向かって記者会見をしてから、妻に帰ってきたよ、と言うのではおかしいと思っていたんです。

今でも妻と子供が言うんですけれども、対局後、わたくしは夜遅くタクシーで帰るのですが、タクシーが止まったとき、あるいは誰か別の人が乗ったタクシーが止まる音を聞くときが、一番嫌だったと言います。

つまり、タクシーが止まったということは、わたくしが帰ってきたということで、まもなく勝ちか負けかを聞くことになるわけです。だから、タクシーが止まった瞬間が一番嫌だったと、今でも語っていますね。

 

家族が心を一つにすれば幸せをつかめる

あるとき、テレビを観ていた三女がふと、マツコデラックスさんだったらば、父の良さをわかってくれるんじゃないかと思っていたら、一週間くらいでマツコさんのテレビ番組出演の依頼をいただいたそうです。理屈抜きの直感だったのかもしれません。

これは普通の日本人的な表現でいうと、やはり幸運といいますかね。今こうして、将棋以外のテレビのお仕事をさせていただくきっかけは三女といえるのかもしれません。

われわれは、明日とか1週間先とか1カ月先のことはわかりません。
わからないけれども、どうしたら1カ月先のことを自分の手元に手繰り寄せることができるか、考えることが大切だと思う。

人生というのは、思わぬ出来事が起こるものです。人が一生懸命立派に生きても、トラブルが発生することはある。油断してはいけないと思っています。

家庭ならば、家族や夫婦が心を一つにして生活する。

当然ながら、お互いが柔和で、できるだけ怒らない。それは当然、要求されると思うんですよね。とくに子供たちは、おだやかな家庭で育つのがいいと思うので。

家族共通の関心事とか趣味があればいいと思う。わたくしは音楽、妻は美術が趣味なんですが、一緒に音楽も聴き、美術館にも行き、国内外の旅もします。

たとえ趣味嗜好が異なっていても、家族が心を一つにすることができたら、問題は発生しないし、幸せをつかめるとわたくしは思っています。

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