誰もがカルロス・ゴーン被告に…「年収にこだわる人」が陥る“欲の罠”
2020年01月06日 公開
誰もが「多欲」に陥る可能性がある
なぜ、私たちはモノやカネを際限なく欲するのでしょう。
仏教では、人間には根源的な5つの欲望があるとしています。つまり、財欲(カネや財物に対する欲)・色欲(性欲)・飲食欲(=食欲)・名欲(名声欲)・睡眠欲(= 睡眠欲)です。
この五欲は人間が生存し、人間らしい生活を営むためには不可欠なものです。しかし、五欲は様々な苦をもたらす元凶にもなり得ます。
しかし、現実には五欲を完全に抑制するのは不可能です。実はお釈迦さまは、欲を求めすぎるのも、また禁欲が過ぎるのも戒めています。つまり禁欲もまた、「欲へのとらわれ」であるからです。
そこで仏教では、中道を保つことが大切になってきます。中道とは「極端を求めない」ということで、少欲知足という考えが大事になってきます。
さらに、欲が生まれる源泉に注目してみましょう。「欲しがること」は、我々の「心の働き」によるものです。心という器は、コップのように容量が決まっているわけではありません。
つまり、決して満たされることはないのです。したがって、満たそう、満たそうと思えば思うほど、際限のない欲望の淵へと堕ちてしまいます。
「知足」とは、渇望することよりも、今与えられたものに対して、「十分である」と気づくこと。与えられたものに対する感謝の気持ちを持つことで、心の器は満たされるのです。
「そもそも自分は、平凡なサラリーマンで、与えられる給料やポストも大したものではない。欲を求めても限界があるので大丈夫」という人もいるかもしれません。
しかし、「少欲知足」の教えは、巨額の富を手にした「成功者」に対してだけの「戒め」ではありません。すべてのビジネスパーソンが、「多欲」に陥る可能性を抱えています。
その背景のひとつにあるのは、企業の成果報酬型の賃金制度だと思います。今、日本の多くの企業は、定期昇給と成果型報酬とを組み合わせた賃金制度を敷いています。
つまり、勤続年数や従業員の年齢を加味しながら毎年、少しずつ、賃金が上がっていく中で、成果を上げた労働者は、より多くの報酬を得られる仕組みです。完全な年功序列、定期昇給型の賃金体系であれば、「ああ、そんなものかな」と諦めもつくかもしれません。
ですが、そこに成果主義がプラスされると、いかに社内ポストと賃金を上げていくか、ということに苦心しがちになります。
このシステムは、常に成長を求めたがる人間の特性を、企業側がうまく利用したもので、企業が成長拡大路線を敷いていく上では理にかなったものと言えるでしょう。
ここに落とし穴が潜んでいます。この成果主義型システムは「何のために働くか」という本質論から、大きく逸れてしまう危険性を秘めているのです。