誰もがカルロス・ゴーン被告に…「年収にこだわる人」が陥る“欲の罠”
2020年01月06日 公開
2019年末、会社法違反(特別背任)などで起訴された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンへ逃亡した。
かつては「名経営者」と称されたゴーン被告がなぜ、道を踏み外してしまったのか。自身も企業に勤めていた経歴をもつ"ジャーナリスト僧侶"の鵜飼秀徳氏が、ゴーン事件がビジネスパーソンに示す教訓と、仏教の教えとの関連性について解説する
※本稿は、『ビジネスに活かす教養としての仏教』 (PHP研究所)の内容を一部抜粋、編集を加えたものです。本文中のゴーン被告の呼称は「ゴーン氏」に統一します。
日本企業の報酬は安いか、高いか
「まさか、あの人が」
この言葉が、これほどピッタリな事件はそうないでしょう。日産自動車のカルロス・ゴーン会長(元職)が2018年に逮捕・起訴された出来事のことです。ゴーン氏が日産のCOO(最高執行責任者)に就任したのは、同社が経営難にあえいでいた1999年のこと。当時私は、駆け出しの新聞記者でした。
ゴーン氏が打ち出した経営再建策「リバイバルプラン」に基づくリストラの現場を、日々、取材していたことが思い出されます。
このリバイバルプランによってグループ人員約2万1000人がリストラされました。しかし大胆な経営改善策の結果、日産は見事、V字回復を成し遂げ、ゴーン氏は一躍、時の人となります。
私は近年、2度ほどゴーン氏に単独取材をしています。外国人にしてはとても小柄な一方で、威風堂々とした独特の存在感を感じたものです。
ゴーン氏といえば、その役員報酬の額が常に話題になります。2010年3月期から、上場企業における役員報酬が年間1億円を超える者の氏名と報酬額開示が義務付けられました。
すると、ゴーン氏は常に上位にランクイン。同社の訂正有価証券報告書では、2009年度(2010年3月期、14億3900万円)、2010年度(2011年3月期、17億7700万円)、2011年度(2012年3月期、18億9400万円)、2012年度(2013年3月期、20億2500万円)と、他企業の役員報酬と比べ圧倒しています。2016年度(2017年3月期)には37億4000万円という驚くべき高額報酬を手にしています。
ゴーン氏は、報酬額のことを聞かれると、このように語っていました。
「グローバル企業としては高くない水準」「高額報酬は恥ではない」「世界の自動車メーカーのトップの平均報酬は2億円を超えている」
グローバル企業のトップとしては、自分の報酬はさほど目立った金額ではないということでしょう。多くの経済評論家も、「むしろ日本の企業トップの報酬が安すぎる」との見解を示しています。そう言われれば「そんなものかな」とも思ってしまいます。