おっぱいは、出産したあとの哺乳類のメスだけが出すもの。その常識に、「待った」をかけるのが帯広畜産大学教授の浦島匡氏です。
妊娠していない「メス」がおっぱいを出した例から、特定の状況下で「オス」がおっぱいを出す可能性まで。おっぱいには、また知られていないことがたくさんあると同氏は語ります。
浦島氏をはじめとする生物学者たちがあらゆる角度からおっぱいの謎にせまる著書『おっぱいの進化史』より、わたしたちの中にある「おっぱいへの固定観念」を揺さぶる一節を紹介します。
※本稿は浦島匡、並木美砂子、福田健二 共著『おっぱいの進化史』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです
「オス」もおっぱいを出す...? 可能性を示す逸話も
おっぱいは、出産したあとの哺乳類のメスだけが出す──常識的には間違ってはいません。なのに、おっぱいを出さないオスにも乳首があるのは、とてもふしぎなことです。
メスでも、「擬妊娠」(想像妊娠)と呼ばれる「妊娠と似たような兆候が体に表れるが、実際には妊娠していない」状態になったマングースやイヌがおっぱいを出したケースが確認されています。
また、妊娠も擬妊娠もしていないメスに子どもを近づけたらおっぱいを出し始めたということが、ヤギやラット、飼育している霊長類やシロイルカなどで観察されています。
少し飛躍しますが、そう考えると動物のオスや人間の男性がおっぱいを出したというケースだってあり得るかもしれません。
おっぱいの分泌は、プロラクチンというホルモンが働いて開始されますが、じつは血液の中のプロラクチンは妊娠していないメスや、濃度は低いながらオスももっているのです。
またオスの乳首を刺激すると、血液の中のプロラクチンの濃度が高まったという例もあります。実験的にも確認されていて、ラットのオスにラクトゲンというホルモンを与えたところおっぱいを出し始めた例があります。どうやら可能性はありそうです。
人間の場合でも、第二次大戦中に栄養不足に陥った捕虜が解放され、十分な食糧を与えられた後におっぱいを出したというエピソードがあります。
この男性は抑留期間中に肝臓、精巣、脳下垂体の機能不全に陥ってしまったそうです。解放された後に精巣と脳下垂体の機能は回復されましたが、肝臓の機能回復が遅かったのでホルモンのバランスを崩したことが原因のようです。
こうした特別な状況下ではないオスは、子どもにおっぱいを与えるようなことはないのでしょうか。