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“親のいない動物”を救う「代用乳」の力

浦島匡,並木美砂子, 福田健二

2020年01月31日 公開 2020年07月29日 更新

 

ヤクルト本社も貢献! 代用乳で育つカンガルーの子ども

筆者は以前、恩師のメッサー博士からヤクルト本社のガラクトオリゴ糖をもらってはくれないかと頼まれました。ヤクルト本社のものが、カンガルーやワラビーのガラクトミルクオリゴ糖にもっとも構造が近いので、その代用乳に添加したいとのことでした。そこでヤクルト本社の友人から分けていただき送ったのです。

その結果、ヤクルト本社のガラクトオリゴ糖を添加した調合乳を与えたカンガルーの子どもは体重の増加が改善されました。現在ではバイオラク社というオーストラリアの一家族が経営するペットフードの会社から、ガラクトオリゴ糖を添加した有袋類向けの調合乳が販売されています。

またあるとき、和歌山県のアドベンチャーワールドから相談を受けたこともありました。動物園で出産したホッキョクグマは、出産直後に赤ちゃんを殺してしまうことがしばしばあります。

そのためアドベンチャーワールドでは、出産と同時に赤ちゃんを保護し、代用乳で育てようと試みていたのです。私がホッキョクグマの乳には、ミルクオリゴ糖の量が乳糖よりも多いという研究成果を発表していたので、飼育員の方がそれを知り、代用乳にオリゴ糖を添加した方がよいかどうか問い合わせてくれたのです。

代用乳は同じ食肉目であるイヌ用のものをベースとしました。ホッキョクグマのおっぱいの組成は脂質の含量が高く、糖質は低くなります。とくに乳糖の含有量は低いのですが、乳糖よりもミルクオリゴ糖が多く含まれています。

私の研究では、イソグロボトリオースというオリゴ糖が最も多いという結果が出ていたので、イソグロボトリオースに最も近い、α-GOSという糖(塩水港精糖により開発。現在では製造されていない)を添加してはどうかと返答しました。

すると代用乳に添加したα-GOSがよい栄養となったのか、またはα-GOSが細菌の感染防御に役立ったためかはわかりませんが、赤ちゃんは病気にもかからず、すくすくと成長したようです。

 

ニーズ高まる代用乳 多様なおっぱいの入手が課題

動物の種類によって、そして赤ちゃんの成長に合わせて成分が変わることもあるおっぱい。生物の体というのは複雑ですばらしい生産のしくみを宿していると感嘆します。

反面、こうした代用乳の調整という面から見ると、手強い対象といわざるを得ません。代用乳のニーズは高く、動物の赤ちゃんたちの生死にかかわるものなので、なんとか生産できたらいいのですが、成分を研究するためのおっぱいの入手が難しい動物も多く、ましていろいろな成長段階のものを集めるのは至難の業というのが現状です。

もし、こうしたデータが集まったら役に立ちますし、動物の進化の謎にも迫れる、おもしろい研究テーマでもあります。さまざまな動物のおっぱいを提供いただける機会があるなら、これからの動物飼育のためにも分析をしたいと思っています。

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