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生き方

夫より、子よりも長生きしてしまった…一人残された女性が緩和ケア病棟で思うこと

柳瀬篤子

2020年02月05日 公開 2020年12月09日 更新

 

「死を突きつけられた人」に、何をしてあげるべきなのか

マルワ緩和ケア科長は、こうも続けます。

「身体的な痛みを緩和するだけでなく、感情面での幸福、精神的な健康、社会関係などにも配慮することで、緩和ケアは病める人々の全人格的な幸福に寄与しています。

どういうケア・プランを立てるのが最良かを知るために最も重要なのは、個人としての患者の中核に触れること。病気だけでなく、死への旅の途上にいる個人としての患者に接することなのです」。

何歳になっても、突然「死」を突きつけられたら、オーディスのように、「どうして私が?」「なぜ今?」と、悲観に暮れ、狼狽するのは人として当然の反応なのかもしれない。

患者の立場になって考えると、「重要なのは個人としての患者の中核に触れること」と言ってくれる医師が側にいてくれたら、どんなに心強いことだろう。

それは、亡くなった家族の夢を見て、遥か昔の母親の台詞を反芻するオーディスにとっても―。

「私が死んだ後、みんなの記憶に残るのは赤いビーツのジャムとキルトでしょう。人生を振り返っても、自慢できるようなことは何もない。むかし、ママが言った。

『オーディスが私の髪をとかしてくれたら、安らかに死んでいけるわ』。

7歳の頃から、私はママの髪をとかしていた。ママが死んだとき、私はワシントンにいたんだけど、すぐに飛んでいって、遺体が横たわっている暗い部屋に入ると、ママのところにいって、髪をとかしたわ」

 

患者が教えてくれる大切なこと

マルワ・キラニ氏は、本書の制作時期を振り返って言う。

「アンドルーが、オーディスや他の患者に接する姿を見ていて、私は医療に対する自分のアプローチを、より広い視野から見られるようになりました。私は病気の治療をしているのではない。患者の手助けをしているのだ、と気づかされたのです。

そして同様に、インタビューを受けてくれた患者のみなさんに感謝したいです。あなた方が、人生について語ってくれたおかげで、多くのことが学べました。

私たちは自分自身の人生を考え直し、後悔を最小限にするには何を優先すべきかについて、考えを改める機会を得られたのです。患者のみなさんの人生についての洞察や智恵を、私たち医療スタッフはいつまでも忘れないでしょう」

オーディスは、天井を見つめて、まるで夢の中のママに話しかけるようにつぶやいたという……

「もう何年も前から、心は穏やか。死んでしまえば、ここから消えるだけだし、もう誰にも傷つけられることはない。

飛び込み台の先端まで走って行って、暗闇の中に飛び込む。水の中に落ちることを期待して」

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