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生き方

「聞いてもないのにアドバイスしてくる人」が持つ支配欲の正体

石川幹人(明治大学教授)

2022年03月13日 公開 2022年06月02日 更新

「聞いてもないのにアドバイスしてくる人」が持つ支配欲の正体

アドバイスと称して何かを教えてくれる人がいた場合、「教えてくれてありがたいな」と思う反面、「うっとおしい」「マウンティングされたのでは」と内心思っている人がいるのではないでしょうか。普通、物事を教えてくれるのは良いことなのに、なぜ糾弾されてしまうのでしょうか。

その理由は「人間の進化」と「現代社会」のズレにあると明治大学教授で進化心理学者である石川幹人氏は言います。いい人なのに嫌われる人が生まれる理由はなぜなのか?その理由を解説します。

※本稿は石川幹人著『いい人なのに嫌われるわけ』(扶桑社)より抜粋・編集したものです。

 

「支配する」サル、「共有する」ホモ・サピエンス

「それって本当はこうなんだよ。だから絶対こっちにしたほうがいいよ」聞いてもいないのに勝手に教えようとしてくる。最初は聞き流していたけど、放っておくとその人の独壇場になって話が止まらない。正直、うっとうしい......。

本来、何かを教えることは、本質的には人間が協力し合う行為に該当するはずですが、なぜか他人から嫌われやすい行為でもあるのです。

その理由は、教えたがりの人が情報を与える行為は、ヒトがサルだった時代に形成された上下関係を持ち込み、確立させようとしているように感じるからなのです。私たちは、サルの時代に獲得してきた個として生きる利己的な遺伝子を引き継いでいます。そして、サルの生態を特徴づけるのが「上下関係」です。

サルは同属の仲間と群れることで生活をしています。その同属の中にも階層があり、力の強いサルが群れの中で上層に君臨し、力の弱いサルを下に従えるという構造になっています。入手した食料も、まずはボスから順に上の階層に渡り、食べ終わった残りを下の階層のサルに回すという循環が観察されています。

これは階層を作って、集団内で得られた利益を強者優先で享受することによって、群れの中で争いが起こらないようにしているのです。

たとえ争いを仕掛けるにしても、「この相手だったら勝てるかもしれない」と感じる1つ上の階層ぐらいのサルを相手にするので、食料が得られるたびに群れ全体で奪い合うことにはなりません。

このようにサルの社会では、「与える」という行為が相手より上位にいることの証明になります。食料も上層から下層へと分け与えているように、物を与えるという行為が、群れの中で上の者であると誇示する行為だと見なされているのです。

群れに階層を取り入れて争う確率を下げていたサルに対して、狩猟・採集時代の我々人類(ホモ・サピエンス)は、少ない人数の集団で協力し合い、格差を作らないことで争いを減らしていました。階層性は、争いを避けるためのより原始的な戦略と言えるのかもしれません。

一方で、会社のような組織では、ある特定の目標を目指して、お互いに協力し合う仲間だと認識されています。狩猟・採集時代のように公平な集団であれば、得た情報は全員の利益として共有されるのが当たり前。だから、一方的に情報を与えようとする相手には、「マウンティングされた」と感じやすくなります。

役職や年代の違いはあっても、「公平に協力し合う関係だったはずなのに、上下関係を見せつけられた」と感じて、知らず知らず反感を買ってしまう原因になるのです。

 

「教える側」が上に立ちたがるのは日本の悪習?

「アドバイスさん」が、単なる情報の「共有」なのか、上から目線の「授与」なのかを判別する方法は、教わった側が、アドバイスさんよりも力をつけたときにどういうリアクションをするかです。

少しでも不機嫌なそぶりを見せたり、過去の栄光を熱心にアピールしてきて自分のほうが上だと主張するようであれば、上下関係を意識して一方的に情報を与えているということです。

本当に自分と対等な仲間だと感じているのであれば、同僚や部下が昇進すれば素直に喜べるはず。例えば、将棋や囲碁などの実力がものをいう世界では、弟子が師匠を超えても「俺のほうが先輩なのにおかしい」などと文句を言う人はいません。また、「ここまで育てたのだから感謝されるのが当然」「自分に対して尊敬の気持ちが足りない」と相手に「お返し」を求める場合も、上下関係を意識していると考えていいでしょう。

特に日本の組織には、役職に伴う上下関係を意識した行為が見受けられ、上司が部下に何かを「与える」「教える」という構図になりやすい仕組みになっています。ところが、本来これは珍しい関係なのです。

例えば、アメリカでは雇用契約に基づき、「何を与えて、何を返すのか」という関係性が先に明示されています。一方的に何かを教えたとしても、教わった側よりも自分のほうが上、という意識はありません。

それに対して日本の場合は、情報を与えた代わりに、その人が何を返すのかが明確に決まっていないため、「情報を与える」「教える」という行為が、上下関係を誇示するための行為にすり替わってしまっているのかもしれません。

このように、「教えることで仲間を作り、教えた側が相手よりも上に立ちたがる」という日本人の性質は、時にうまく利用されてしまうケースがあります。特にベンチャー企業などでは、新入社員が十分に社内のスキルや情報を抜き取ってから、それを持って同業他社に転職してしまうことがよくあるのです。

終身雇用制のおかげで、長らく日本は一人の正社員が定年までずっと同じ会社に居続けてくれるという想定で人材教育がなされてきました。しかし、そのような雇用制度が崩壊しかけている現在、社員教育や職場での関係性を明確にする契約などを見直す時期にきていると言えます。

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