不倫はやはり不謹慎!?…戦時中に上演が禁止された「落語ネタ」
2020年02月07日 公開 2024年12月16日 更新
「権助魚」
旦那が妾の家に行くと思った女房は、使用人の権助に旦那の供をさせ、行き先を確かめるようにと 1円の小遣いを渡します。
「帰りは遅くなる。泊まりになるかもしれない」という旦那に、女房は強引に権助を付けて送り出します
「妾の家に行くのだ」とわかっている権助が旦那をいじりだすと、旦那は2円を 渡し、言い含めます。
「知り合いに会ったので柳橋の料亭へ行って、天気がいいから隅田川の船宿から投網船を出して、網打ちをしたということにしてほしい。網打ち魚(投網で獲った魚のこと)を持ち帰って、女房に見せて、旦那は湯河原に行ったことにしろ」
2円で旦那に寝返った権助は、魚屋に向かいます。
「網打ち魚をくだせえ」 魚屋にそう頼むと、「うちの魚はどれも網で獲れたもんだよ」と返されてしまいま す。そこで権助は、店先の魚を片っ端から買いますが、隅田川では獲れない魚ば かり。ニシン、スケソウダラ、タコ、そしてカマボコ......!
早々に家に戻った権助は、女房に責められ、買ってきた網打ち魚を見せて説明を試みますが、女房はあきれ返ります。
「この魚は、関東一円じゃ獲れないものなの!」
「いや、 1円じゃごぜえません。旦那から2円もらって頼まれた」
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この落語のキーパーソン「権助」は、落語によく出てくる人物で「典型的な田舎者」として描かれています。
パワフルで傍若無人で気が利かないキャラクターが、旦那の不倫のアリバイ工作に加担させられるという時点で湿っぽい話ではなく「喜劇」になることは確定しています。
もちろん、実生活で「リアル権助」のような言動をとると、信頼関係を失ったり、トラブルを起こしたり、失うものは多くなることでしょう。ただ、権助が出てくる話は「笑える展開」のものがほとんどです。
現代では不倫は悪事とされていますが、あくまで「知的な愉しみ」として権助が出てくる落語に接し、魂だけでも遊ばせてみてください。
もう一つ、「紙入れ」という落語(お色気噺)もおすすめです。この噺は戦時中には「禁演落語」として上演が禁じられたそうです。