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謎の旅人「タナカ」号泣!? 25人暮らしのバングラディシュ大家族の"おもてなし"

さくら剛

2020年02月18日 公開 2020年02月19日 更新

 

「自称タナカ」がタナカである理由

とはいえ、「苦しみが9割」というのはおそらく登山だってマラソンだって同じなわけで、逆に9割もの時間が苦しいにも関わらず登山をする人もマラソンをする人も旅に出る人もいなくならないということは、

それだけ登山もマラソンも旅も、残りの1割がすごく魅力的だということを示しているのではないか。

私にも実際にあった、心温まる瞬間をご紹介しよう。

パキスタンのフンザから南へ下り東へ進み、私はバングラデシュにいた。バングラデシュでは外国人旅行者が珍しいらしく、基本的に外を歩いていると自分の周りに人だかりができる。

その中に、ハッサンとサラムという青年が、たどたどしい英語を一生懸命使って、無垢なキラキラ輝く目で「友達になろう!」と訴えて来た。

ちなみに歳を尋ねてみると弱冠17歳という。倫理的に断れないシチュエーションだったので、しぶしぶお邪魔させていただくことにした。

ハッサン宅は、レンガとコンクリートで造られたがっしりとした四角い邸宅であった。招かれるまま入って行くと、家族の皆さんが明るく迎えてくれる。

お母さんにおばさんにおばあさんに何人もの従兄弟。そして入れ替わり立ち替わり家族の方々が登場する度にハッサンが

「ヒーイズタナカ!ヒーイズジャパニーズ!」と紹介してくれるものだから、私も「ハロー。日本から来ましたタナカです」と謎の自己紹介をした。

私の名前は田中ではないが、本名は外国の人には馴染みのない発音らしく、外国人でも知っていそうなわかりやすい日本人名として、「田中」と名乗るようにしている。

ハッサンはしばらく姿を消すと、おそらく私のために大金(彼らにとっては)を出して買って来てくれたのだろう、7UPのファミリーサイズペットボトルを持って現れ、コップに注いでくれた。

 

「親切さ」はイスラム教圏の真骨頂

こういう献身的ともいえる親切は、まさにイスラム教の人々の真骨頂である。山奥でお宅に招いていただいたパキスタンもイスラム教で、ここバングラデシュもイスラム教。

パキスタンとバングラデシュはインドを挟んで東西に分かれているが、実は元々は同じ国だったのだ。バングラデシュの昔の国名は「東パキスタン」。

だから人々の人当たりの良さや親切ぶりなんかも、パキスタンとバングラデシュではほぼ同等なのだ。

……それなら、その親切な2カ国に挟まれているインドもまた影響を受けて人々は親切で思いやり深い人ばかりなのかというと、そこについてはノーコメントとさせていただきたい。

この家は部屋数も多く割と広く感じられるのだが、それもそのはず、なんと一家全員25人がひとつ屋根の下に住んでいるという。25人ともなるともはや家族というより学校の1クラスである。

隣村のホームレスが勝手にこの家に住み着いても「あれ?あんな家族いたっけ?まあ人数多いから、あんなのもいたかもしれないね……」と全員が思い、しばらく放置されそうである。

なお、この家の家業はローソク工場であるらしく、2階の作業場にはチーズかまぼこのようなカラフルなローソクが何千本と保管されていた。停電の多いこの国では、ローソクはまだ現役で重宝されているのだ。

その後ハッサンやサラム、そして家族のみなさんと記念写真を撮ったりなんやかや質問攻めにあったりしていると、イスラム教のお祈りの時間が来たということで、邪魔しないよう私はおいとますることにした。

ハッサンはお土産に自家製のローソクを1箱も持たせてくれるし、私が宿に帰れるようにリキシャ(自転車タクシー)をつかまえて料金交渉までしてくれるし、まさに至れり尽くせりであった。

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タナカは君たちのことを決して忘れないだろう

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