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社会

世界が注目するハラリ教授が示した、「新しい疾病」を解決してしまう者の正体

ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)

2020年03月13日 公開

 

新しい疾病の認定や新薬の開発の情報を、一斉に共有して解決してしまう存在

もし世界保健機関(WHO)が新しい疾病を認定したり、研究所が新薬を開発したりしたら、こうした進展を世界中の人間の医師全員に知らせることは不可能に近い。

それに対して、たとえ世界中に100億のAI医師が存在し、それぞれが一人の人間の健康状態をモニターしていたとしても、そのすべてを瞬く間にアップデートでき、それらのAI医師はみな、新しい疾病や薬についての自分のフィードバックを伝え合える。

このような接続性と更新可能性の潜在的な恩恵はあまりに大きいので、少なくとも一部の職種では、「すべての」人間をコンピューターに取って代わらせることが理に適っているかもしれない―たとえ個別には、機械よりも腕の良い人間がいくらかいたとしても。

個々の人間をコンピューターネットワークに切り替えたら、個別性の利点が失われるとして、異論を唱える人がいるかもしれない。たとえば、一人の人間の医師が判断を誤っても、世界中の患者を殺すこともなければ、すべての新薬の開発を妨げることもない。

それに対して、もし医師全員が本当は単一のシステムにすぎず、そのシステムが間違いを犯せば、大惨事になりかねない。とはいえ実際には、統合されたコンピューターシステムは、個別性の恩恵を失わずに接続性の利点を最大化しうる。

同じネットワークで多くの代替アルゴリズムを作動させることが可能だ。だから、辺鄙(へんぴ)な密林の中の村にいる患者は、自分のスマートフォンを使って、単一の権威ある医師ではなく、実際には100の異なるAI医師にアクセスできる。

それらのAI医師の相対的な実績は、絶えず比較されている。IBMの医師に言われたことが気に入らなかった? 大丈夫。たとえあなたがキリマンジャロの斜面のどこかで立ち往生していたとしても、いとも簡単に百度(バイドウ)度の医師と連絡を取って、セカンドオピニオンが聞けるから。

おそらく、人間社会が受ける恩恵は計り知れない。AI医師は何十億もの人に、これまでよりもはるかに優れた医療をはるかに安く提供できるだろう。

とくに、現在は何の医療も受けていない人々には。学習アルゴリズムと生体(バイオメトリック)センサーのおかげで、発展途上国の貧しい村人さえもが、現在、世界で最も裕福な人が最も進んだ都会の病院で得るものよりもはるかに優れた医療を、スマートフォンを通して享受できるようになるかもしれない。

したがって、人間の仕事を守るためだけに、交通や医療のような分野での自動化を妨げるのは愚行だろう。

なにしろ、最終的に守るべきなのは、職ではなく人間なのだから。余剰になった運転者や医師は、何か他にすることを見つけるしかない。

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