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「がんは、必ず死ぬ病気ではなくなりつつある」研究者が語る"治療の最先端”

一石英一郎(いちいし・えいいちろう)、鬼塚忠(作家エージェント)

2020年03月13日 公開 2022年02月02日 更新

 

体に負担のない画期的な検査

(鬼塚)では、マイクロRNA検査というのはどういったものか教えていただけないですか。

(一石)がんを治癒するためには、早期発見と早期治療が何より必要です。だからといって年中、内視鏡検査やCT、MRI検査を受けるわけにはいきません。

費用がかさみ、面倒だし、副作用もあります。そこで、最近注目されているのは尿検査や便検査すら不要な、血液や唾液「1滴」で検査できるマイクロRNA検査です。

この検査で、すい臓がん、乳がんなど13種類のがん患者と、健常者を2時間以内に識別できるようになります。

これが極めて体に負担のないスクリーニング検査方法で、さらにこれが簡便で高精度なのですから画期的です。

この研究は2014年度から国立がん研究センターを中心とした国家プロジェクトとして進められました。背景には2013年6月に策定された「日本再興戦略」で示された3つのアクションプランのひとつ「戦略創造プラン」があります。

そのプランの目標である「国民の『健康寿命の延伸』」を実現するための施策のひとつとして「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が選ばれたのです。2019年3月にプロジェクトは終了しましたが、その成果は明らかになっています。

 

がんゲノム医療のスタートで大きく変わる「がん治療」

(鬼塚)先生は2018年に「日本人の遺伝子」を上梓し、最新の遺伝学にも造詣の深い先生ですが、ゲノムの観点からも今期待している治療法があるそうですね?

(一石)期待している治療法があります。実は2019年からこうしたがん治療の流れに新たな変化が加わることになりました。「がんゲノム医療」に対する公的医療保険適用の認可が下りました。それ以降、この分野が本格的にスタートしたのです。

「ゲノム」とは親から子どもに受け継がれる遺伝情報のことです。がんゲノム医療は、患者一人ひとりの全遺伝情報を調べてその患者のがん細胞内の遺伝子変異を解析、それに対応した治療法を患者ごとに提案・実施する医療を言います。

言い換えれば、患者一人ひとりのがん細胞の個性を知ることで、それに最も効くであろう抗がん剤を選択する治療です。この治療法はこれまで、民間の医療保険の適用対象となる先進医療として行われてきました。

今回、その効果が国により確かめられたことから「がんゲノム医療中核拠点病院」、「(がんゲノム医療)拠点病院」、「連携病院」に通う、手術などの効果が見込めない患者に対して、公的医療保険適用のGOサインが出たのです。

(鬼塚)この、がんゲノム治療が進むと、具体的に患者にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。

(一石)抗がん剤治療はつらいものです。そのつらさを目の前にし、抗がん剤治療を拒否する患者の気持ちもわかります。そこで、このがんゲノム治療は、その抗がん剤治療を施す前に、患者の体から採取したがん細胞片を取り出します。

そして分析し、最も効果的な抗がん剤を探しだすことができます。つらい副作用を軽減しつつ、より高い治療効果が期待できます。

がん患者はまず、「がん遺伝子パネル検査」でがん組織などの遺伝子を一気に調べます。

これまでも遺伝子検査で少数の遺伝子の変異を調べることはできましたが、遺伝子の塩基配列を高速で読み取る次世代機器や人工知能などさまざまな最先端科学を使うことでがん患者が抱える多数の遺伝子変異を一度に正確に調べられるようになりました。

また、患者の遺伝情報が解析されることでこれからの医療は抗がん剤だけでなく、「あなたのがんはこの遺伝子とこの遺伝子がこの型なので、こういう食事や運動メニューがおススメです」というように、より個別に対応できるようになります。

がんに限らず糖尿病や高血圧などの一般的な病気も個々人の遺伝情報を調べることで治療や予防の仕方が変わってくるはずです。

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がん研究者の長年の夢「遺伝子治療」

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