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「会社のため」と密告をくり返す人…“嫉妬属”が社内に生まれる悲しい事情

石川幹人(明治大学教授)

2020年05月29日 公開 2022年06月02日 更新

「会社のため」と密告をくり返す人…“嫉妬属”が社内に生まれる悲しい事情

《「あの人、裏でこんなことしてましたよ」と、他の社員の行動を上司の耳に入れることに余念がない。「会社のため」と言って重役や上司へ「密告」する内容には、言いがかりや個人的なクレームが混じっていることも。

自己正当化に長け論理武装に熱心な一方、自分の手落ちや努力不足には甘い。程度の差はあれど、そんな「嫉妬属」が存在する職場は数多い。

進化心理学、認知行動論の第一人者である明治大学教授の石川幹人氏は、新著『職場のざんねんな人図鑑〜やっかいなあの人の行動には、理由があった! 』にて、進化心理学・認知行動論の視点から、仕事でつきあう人の生態を25通りに体系化し、そのふるまいの謎を解き明かしている。

本稿では同書より、社内での告げ口に生命を燃やす「嫉妬属」の生態と対処法について解説した一節を紹介する。》

※本稿は石川幹人著『職場のざんねんな人図鑑〜やっかいなあの人の行動には、理由があった! 』(技術評論社)より一部抜粋・編集したものです。

 

「会社のため」を装った「妬みの感情」

「あの人、自分で成約をとったように見えるけど、じつは別の人の支援があったからです」
「裏でこんなことしてましたよ」
「あれっておかしくないですか?」

このように助言し、評価の是正を求めてきたりします。社内や組織の情報通で、だれがどこで何をしていたのかをしっかり覚えており、適切なタイミングで重役や上司などに告げ口したりします。

人との立ち位置や境遇の違いにひと一倍敏感な様子も見られます。あくまで組織全体の正当な評価と制度を求める体を装っていますが、場合によっては言いがかりやお門違いのクレームも散見。

「○○な人はいいですよねえ」と、自分とは違う境遇の人を特別視したり、口に出して言うこともあります。自分ではあらわにしませんが、自分の待遇に対する不満が根っこにあるような態度もちらほら。ただし、指摘すると、

「みんなのことを思って言ったのだ」
「みんな裏ではそう思っている」

と、自分の感情や妬みを否定しようとします。社会情勢分析や国家論、心理学などの理論武装を兼ね備えているケースも。度が過ぎると、ネットなどで該当の人が登場する記事やスレッドのコメント欄などで、やや妄想交じりに叩くようなコメントをする姿も見られます。

 

「嫉妬の起源」は狩猟採集時代にあり

本来、嫉妬は、自分に来るべき利益が仲間にいっている状態を是正しようとする、公平さを求める感情として進化しました。嫉妬属は、この嫉妬の感情を場違いなところで発揮しています。

たとえば、成果があがっていないライバルが昇給したときに、「私の給料も上げてください。ダメなら、やつの昇給を元に戻してください」と上司に訴える社員が、典型的な嫉妬属です。

もとをただせば、「チームが協力して稼いだ成果は、メンバーによって公平に分けるべき」というのは、倫理的に正当な主張です。人類は、狩猟採集時代の小集団で協力して生活しているうちに、嫉妬感情を身につけました。

なにしろ、お金もなければ、食べ物を保存する知恵もない時代。だれかが狩りに成功すれば、獲物は皆で分け合って食べ、分け与えられただれかがまた次の狩りに成功するといった具合に、互いに助け合うことで餓死せずに済んでいたのです。公平感や恩義も、この時代に備わったと考えられます。

しかし現代の社会では、感情が発動する前提条件の一部が崩れています。地域や職場などの所属集団が、昔のような「一蓮托生の仲間」ではなくなっているからです。

たとえば、イベントの抽選会で自分の前でくじを引いた人が、1等の世界旅行を当てたとします。もう少しで自分のところに来たという「逃した利益」は、嫉妬を引き起こします。

もし、1等を引き当てた人が仲間であったら、嫉妬は有効です。その仲間は「いっしょに行こう」と言ってくれるでしょう。でも、赤の他人であれば、嫉妬しても何の効果もありません。

つまり嫉妬属は、もはや嫉妬が役に立たない局面であるにもかかわらず、昔の生活環境に応じた習性で、感情を発動させているのです。

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もし自分が「嫉妬属」だったら

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