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社会

「すぐに不機嫌になる人」が心の奥底で恐れている"孤独感”

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年10月28日 公開 2023年07月26日 更新

 

家族といる時になぜ生きがいを感じられないのか

子どもは心理的に成長するためには積極的関心を必要とする。しかしナルシシストには他者に対する積極的関心はない。ナルシシストの親を持った子どもは心理的に成長できない。とにかくナルシシストは自分に囚われている。

自分の心の苦しみに囚われている。ナルシシストの親は子どもに対する関心はない。そうしたナルシシストのいる親の家族生活が楽しいわけがない。子どもの側が、こうした家族といる時に生きがいを感じられないということは、当たり前の話である。

ナルシシストの親は、自分の心の葛藤で精一杯であるから、子どもの喜びや悩みには関心がいかない。そもそもナルシシストの親は子どもの喜びや悩みに共感する能力そのものがない。

とにかく自分が今生きていることが精一杯であるから、子どもにとって現在の親子関係が悲劇的であることを理解できない。親としての責任感など想像もできない。親という立場は重荷であり苦役であり、不公平なものとしか感じない。

ナルシシストの父親には「なんで俺だけが働かなければならないのだ」という怒りがある。被害者意識である。そこでよく、家族の者に「出ていけ」と言う。家事をしている母親も同じである。「なんで私がこんなことをしなければならないのだ」と怒る。

これも被害者意識である。親がナルシシストなら、家族は形式的には家族だけれども、お互いの心の中はバラバラである。なにを体験してもお互いに共感がない。心の触れ合いはない。

こんな家族で、子どもが家族といる時に生きがいを感じるということはない。世界の中で家族といる時に、もっとも生きがいを感じないのは日本の若者である。つまり、日本はナルシシストの国なのである。

自分の心の葛藤で精一杯で、その心の葛藤に気持ちを奪われている以上、親は子育てが楽しいということはあり得ない。自分が生きることに精一杯で、他にゆとりがない時に、子育てが楽しいわけがない。

子育てが楽しいという人がたくさんいれば、人々は子どもが欲しいと思うだろう。しかし子育ての負担だけが語られる世の中では、若い人たちは「どうしても子どもが欲しい」とは思わないだろう。

ナルシシストほど親に適していない性格はない。子どもはあやされながら成長する必要がある。ところがナルシシストは、親である自分がチヤホヤされたい。自分がまだあやされたい。自分がまだあやされたいのにあやされないから被害者意識を持つ。

この連鎖を断ち切ることは難しい。そう簡単に日本からメンヘラといわれる人がいなくなることはないのである。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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