状況はある日、突然に一変した
もともと空手家で、のちにプロレスラーに転身した松永さんは、その強靭な肉体でハードワークをこなし、『ミスターデンジャー』を行列のできる繁盛店に育てあげてきたが、その代償として全身はボロボロになっていた。
詳しくは本に書かれているが足底筋膜炎という難病にも侵され、ついには立っていることも困難になり、厨房で膝立ちをしながらステーキを焼いてきたこともあった。
その難病を克服した矢先に襲ってきた脳の異常。
店の運営どころか、今後の人生すら左右しかねない絶望的な状況である。
「ところが治療の途中で自然治癒してしまったんですよ。なぜかはわかりませんけど、言葉もちゃんと出るようになったし、病院までの道のりもわかるようになった。ホッとしましたね」
松永さんは病院に行き、120万円にも及ぶ治療の契約を解除する。そこではじめて自分の病気がなんだったのかを知った。
「医師も嫁も私に伝えないでいてくれたのか、それとも私の記憶が飛んでしまっていたのか……診断書に記されていた病名は若年性認知症でした。さすがに驚きましたよ。まだ54歳ですからね、私は。治癒したからこそ、過去のこととしてこうやって話せますけど、あのまま治らなかったと思うと恐ろしいですし、自分の健康と改めて向き合いました」
本来であれば、肉体的な負担を軽減するために仕事量を減らさなくてはいけないのだろうが、常に店内が賑わっていてアイドルタイムがほとんどない繁盛店ではその決断は難しい。
だが、新型コロナウイルス感染防止のため、東京都からの要請もあったことで「時短営業」を余儀なくされることになった(8月3日から再度、東京都の要請を受けて閉店時間を繰り上げて営業中)。
「結果的に営業時間を短縮しても、収益はそんなに落ちなかったんですよ。早く閉まるとわかっているお客さんは、いつもより早い時間帯に足を運んでくれるようになりました。自分の体のことを考えても、これが新しい経営方針になるのかな、と。コロナがなかったら、気がつかなかったでしょうね」
過激なデスマッチを繰り広げながらもリングで生き残ってきた松永さんは、飲食店というバトルフィールドでも「新様式」で生き残っていく。