元プロレスラーで、現在、ステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営している松永光弘さんの新刊『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(ワニブックス・刊)が話題を呼んでいる。
狂牛病騒動をはじめとして、平成の時代に降りかかってきた数多の苦難を乗り越えてきた松永さんは、今回の著書で「いかにして危機的状況をクリアしてきたか」について赤裸々に告白。そして、そういった経験則が外食産業にとって「令和最大の危機」であるコロナ禍でも活かされる、ということを詳しく綴っている。
妻の指摘で判明した「脳の異常」 病院への道も分からなくなる
「この本を書いたのは、まさに新型コロナウイルス感染拡大の影響が広がってきてから。だから、店の経営にどういう影響があったのかも書くことができたし、締め切りギリギリまで粘って、緊急事態宣言が解除されたあとの様子まで反映させることができました。
こんな時期に本を出すのはどうなのかな、という気持ちも正直ありましたけど、こんな時期だからこそしか書けない一冊になったと思います」(松永さん)
たしかにこの本は異色のビジネス書にして、コロナ禍での店舗経営の「リアル」を描いたドキュメントでもある。そして、松永さんが月商から家賃まで具体的な数字を隠すことなく明かしていることで、より臨場感が増している。
「それは出版社の方にも驚かれましたね。『ここまで書いちゃっていいんですか?』と。ただ隠すようなことじゃないと思うし、私としては当たり前のことを書いただけですよ」
そう語る松永さんだが、じつはこの本に書かなかった「衝撃的な事実」がある、という。
「今回の本にはこれからの時代を生き残る、というテーマもあったので、あんまり暗くなるような話が最後のほうに出てくるのはよくないかな、と思ったんですよね。それに現在は治癒しているので……まぁ、ハッキリ言ってしまえば、私は昨年『廃人』になりかけたんです」
なんともショッキングな告白だ。
「昨年のいまごろのことです。仕事のとあるストレスで6日間、まったく眠ることができなかったんですよ。ところが身体自体は元気で疲れもないから、私は普通に店に出て、いつものように働いていました。
ところが嫁から『あなた、明らかにおかしいわよ』と指摘されて、そのまま都内の病院に連れていかれました。その時点でも私は自覚していなかったんですが、もう言葉の受け答えができなくなってきていたんですね。
病院で検査を受けて、脳の画像を見せてもらったらハッキリと異常が確認できて、すぐに治療をすることになったんです。あのとき嫁が指摘してくれなかったら……そう思うとゾッとしますね」
だが、本当に大変だったのはここからだった。
「病院にひとりでは通えないんですよ。なぜなら脳に異常があるので、家から病院までの行き方が覚えられなかったんです。
だから嫁に連れていってもらうんですが、嫁は店の準備があるから、すぐに戻らなくてはいけない。行き方がわからなければ、当然、帰り方も覚えられないので、毎回、病院から店までタクシーで帰ることになる。
それだけでも痛い出費になるんですけど、なによりも参ったのは莫大な治療費です。1回2万円の治療を60回。計120万円にもなるんですよ。
これはとんでもないことになってしまったな、と。ただ、病気を治さないことには店を続けていくこともできなくなる……もう、ほかに選択肢はありませんでした」