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親の性格は遺伝するのか? 「双子の研究」が示すDNAの影響力

石川幹人(明治大学教授)

2020年10月30日 公開 2022年03月07日 更新

 

双子の研究から見えてくる「性格や能力も遺伝するのか?」の実際

次の疑問は、性格や能力などの心理的特徴までもが、DNAの遺伝情報から形成されるか、という点である。この疑問に肯定的なデータを提供したのが、双子の研究である。

双子には、一卵性と二卵性の2種類があることが知られている。一卵性の双子は受精卵が増殖中に分離して、まったく同じDNAをもつ子どもが2人生まれる場合である。

一方、二卵性の双子は、未受精卵がそもそも2つあり、それぞれに異なる精子が受精する場合であり、DNAレベルでは兄弟姉妹と同程度の差異である。兄弟姉妹と同程度の差異とは、まったく同じDNAと、赤の他人に相当するDNA差異(それにしても同じ人間なのでかなり似ているが)のちょうど中間の差異とされる。

これは、哺乳類が有性生殖する生物だからである。未受精卵が母親のDNAをシャッフルして半分ひきつぎ、精子が父親のDNAをシャッフルして半分ひきつぐ。

だから、母親と父親が赤の他人だった(同族結婚でない)場合、子どもは母親に半分似ていて、父親に半分似ているのだ。同じ理屈で、兄弟姉妹同士も平均して半分似ているのである。

少々ややこしい話になったが、ここでは一卵性の双子同士はまったく同じDNAをもつが、二卵性の双子は(赤の他人と比較して)平均して半分しか似ていないと理解してほしい。

なぜなら、この事実が、遺伝か経験かの判定に使えるからだ。出産の1%弱が双子であるので、比較や検討をするのには十分な事例がある。その中で1970年代から数千組の双子について、性格や能力の類似性の比較調査が行われてきた。

通常、親は双子が一卵性だろうが、二卵性だろうが同じように育てるだろう。ということは、かりに性格や能力への遺伝的影響が皆無であるとすると、性格や能力の差異は、生後の経験だけに左右されることになるので、一卵性双子の差異と二卵性双子の差異は、平均すると同程度になるはずである。

 

遺伝によって説明できる割合

ところが、調査の結果、二卵性双子の差異に比べて、一卵性双子の差異はきわめて小さかったのである。つまり心理的特徴は、DNAによって決定づけられている部分があるということだ。

分析によると、遺伝によって説明できる割合が、外向性などの性格では3から4割、多くの能力ではそれより大きく、スポーツや音楽の能力では9割にものぼっている。

こうした双子の調査は世界各地で行われて、同様な結果を得ており、非常に再現性の高いデータとなっている。ただし調査対象は、先進国の標準的家庭であるため、いわゆる途上国における栄養不足などの過酷な状況は含まれていない。

そうした状況も含めると、生後の経験(栄養状態や家庭環境など)によって説明できる割合のほうがもっと高まるだろう。しかし、たとえ経験による説明割合が高まったとしても、DNAによって決定づけられる割合は依然として大きいと推測される。

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