「営業時間の短縮」で売り上げを伸ばしたロイヤルホストが、コロナショックで学んだこと
2020年11月04日 公開 2024年12月16日 更新
営業時間の短縮、24時間営業の廃止、店舗休業日の設置……一連の「働き方改革」によりかえって売上を伸ばしたロイヤルホールディングスが、コロナショックという未曽有の事態に苦しんでいる。
同社会長の菊地唯夫氏と、新著『未来を知る力』(PHP新書)で「戦略的に縮む」という経営改革論を提唱する人口減少対策総合研究所理事長・河合雅司氏がアフターコロナの企業経営を展望した。
「ブラック企業」に陥る前の大英断
【河合】コロナ禍で一時的に失業者が増えていますが、中長期的には人手不足が深刻化していくでしょう。少子高齢化によって働き手世代は毎年約70万人のペースで減り続け、今後20年でおよそ1400万人も少なくなるからです。
「コロナ前」を振り返りますと、政府は外国人労働者の受け入れの旗を振っていたわけですが、こうした政策には限界があります。人手不足は日本だけではありませんし、コンピューターの普及でいまや途上国にも多くの仕事が創出されるようになったためです。
一方、働き手世代とは労働者であると同時に消費者でもありますので、この世代が減るとなれば、それを前提として経営モデルを変えないと多くの日本企業は生き残れないでしょう。
他社に先駆けての「営業時間の短縮」「24時間営業の見直し」は、こうした人口の変化に対応する意味もあったのでしょうか。
【菊地】私たち外食産業は、働き手世代の減少の影響が顕著な労働集約型の業種です。外食産業が急速に成長したのは1970年代以降で、日本の人口がうなぎ上りの時代でした。
サービスには画一性とスピード、効率性が追求され、当社グループもチェーン理論やセントラルキッチン(大量の食材を一括調理し、複数の店舗に提供する施設)を導入し、多店舗化を図りました。
翻って現在、日本の外食産業は25兆円規模を維持しているものの、2008年に人口増が止まって以降は人手不足による厳しい労働環境など、業界全体にひずみが生じています。
本格的な人口減少時代に備え、早急に手を打たなければならない。こうした危機感から、従業員の働き方の見直しのひとつとして、ロイヤルホストの営業時間の短縮、24時間営業廃止の流れを進めてきました。
一昔前はアルバイトを募集したら募集人数を大きく上回る応募がありましたが、近年は新規店のオープン時にアルバイトを募っても数人しか集まらず、オープンを延期せざるをえないという話も聞きます。
ロイヤルホストでは人手不足に対応するため徐々に営業時間を減らし、2017年の1月~3月では1店舗あたり平均1.3時間の営業時間を短縮、それに伴い1月末に24時間営業は0店舗になりました。
さらに2018年には年中無休を改め、年3日の店舗休業日を設けました。従業員の働き方に余裕を与え、サービスの付加価値を上げるのが狙いでした。
【河合】営業時間を短縮したことで、むしろ売り上げが伸びたそうですね。これは狙い通りだったのでしょうか。
【菊地】2017年に1店舗あたり平均1.3時間の営業時間を短縮する売り上げを算出すると、約7億円。したがって1年後、7億円の減収を想定していました。ところが驚くことに、営業時間を短縮し24時間営業をやめたら逆に7億円の増収になったのです。
なぜ売り上げが増えたのか。早朝・深夜の営業時間を短縮し、ランチとディナーのお客様が集中する時間帯に十分な数の従業員を配置することで、サービスの満足度や付加価値を高められたからだ、と考えています。これは想定していたわけではなく逆に現場に教えていただいたということだと思っています。
【河合】店員の勤務ローテーションに余裕ができることで、ホスピタリティの質が向上します。心のゆとりが生まれれば、店員は「食後にデザートはいかがですか」といった客への声掛けもできるようになります。こうした小さな積み重ねが、客単価を上げることに繋がったのではないでしょうか。
【菊地】まさにおっしゃるとおりです。
【河合】ロイヤルホストが24時間営業を廃止した2017年というのは、ヤマト運輸がアマゾンの当日発送からの撤退を表明しました年でもあります。その後、コンビニエンスストアの一部でも24時間営業の見直しが始まりましたし、JR東日本やJR西日本をはじめ大手私鉄も終電時間を繰り上げる方針を表明しました。
コロナ禍の影響もあるわけですが、日本社会が人口減少に合わせて少しずつ縮小し始めています。やや遅きに失した感はありますが、この流れはもはや止まらないでしょう。