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実は、生活保護の受給は「貧困の罠」 コロナ失業をどう救うべきなのか?



2020年12月02日 公開

鈴木亘(学習院大学経済学部教授)

生活保護を安易に支給してはいけない理由

コロナショックにより失業者が急増している。政府は当然失業者対策を行うべきであるが、これまでと同様生活保護を支給すればそれでよいのだろうか。社会保障の専門家が、生活保護がもたらす「貧困の罠」について解説し、「第二のセーフティネット」の積極活用を提言する。

※本稿は、鈴木亘著『社会保障と財政の危機』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

最後のセーフティーネット

10月30日、2020年9月分の労働力調査の結果が公表され、完全失業者数は210万人に上り、前年同月に比べ42万人増加したこと、8か月連続の増加であることが発表された。

コロナショックにより、失業が長引いて生活困窮に陥った人々に対して、生活保護を積極的に活用すべきであろうか。リーマンショック時には、まさにそれが行われた。

よく知られているように、生活保護制度は憲法25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」を守るための「最後のセーフティーネット」である。国民が様々な理由から貧困に陥って、まさに万策が尽きた場合、その理由の如何にかかわらず、最低水準の生活費が行政から支給される。

支給される金額は世帯構成(人数や年齢)や居住地によって異なる。例えば、東京都23区についてみてみると、2020年現在、夫婦二人と子ども一人(夫33歳、妻29歳、子ども4歳)の場合には、生活費(生活扶助)と住宅費(住宅扶助)を合計して約23万円が支給されている。

単身高齢者(68歳)の場合には13万円強、母子家庭(母親30歳、子ども4歳、2歳)の場合には約26万円である。これらは言わば、税抜きの「手取り収入」であるから、余裕があるとまでは言えないが、少なくとも過不足の無い金額である。

この他、子どもに対する教育費(教育扶助)も別途支給されるほか、医療(医療扶助)や介護(介護扶助)の自己負担額はゼロになる。2018年現在、国と地方の生活保護費の総額は約4兆円である。

生活保護を申請して受給が認められるためには、いくつかの条件(要件)を満たす必要がある。第一に、不動産や一定以上の貯蓄を保有している場合には、まずはその資産を活用すべきであるから、原則として生活保護が認められない。

第二に、年金や諸手当などの社会保障給付を得ている場合にも、まずはその活用が求められる(もちろん、給付額が少なければ、最低生活費から給付額を差し引いた分の生活保護費が支給される)。

第三に、「稼働能力要件」として、心身ともに健康で労働が可能な場合には、まずは職を得て働くことが求められる。したがって、たとえ失業給付期間が過ぎた失業者といえども、働く能力のある人(稼働能力層)に対しては、生活保護が認められない制度となっていた。

 

転機となった「年越し派遣村」

ところが、リーマンショック以降、生活保護の運用基準が大きく変わり、たとえ稼働能力があっても職がなかなか見つからない場合には、生活保護が認められる制度となった。

きっかけはリーマンショック直後の2008年末に設置された「年越し派遣村」である。この時、派遣切りにあった労働者を救済するとして、東京都千代田区の日比谷公園に仮設テントの生活保護申請窓口が作られ、失業者たち(実際には、派遣切りにあった労働者よりも、周辺のホームレスの人々が多かった)が大挙して並んだ。

厚生労働副大臣をはじめ、民主党の政治家たちもパフォーマンスのために駆けつけ、連日テレビで放映される大騒ぎの中、稼働能力に関して大幅に緩和された基準で保護決定が行われた。

そして、そのことが前例となり、2009年3月以降に次々と出された厚生労働省の通達によって、それ以前は生活保護の申請すら難しかった稼働能力層が、生活保護を受給できるようになったのである。

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