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松永久秀と武田信玄は密かにつながっていた?…『麒麟がくる』が描いた「織田と武田」の違い

前田慶次(名古屋おもてなし武将隊)

2020年12月19日 公開 2022年07月21日 更新

 

織田重臣から光秀への“頼み事”が示すのは…

佐久間信盛が屋敷から去る際、「上様に十兵衛殿の方から言上を頼む」と光秀を頼る。

織田家重臣の面々ですら、聞き入れてもらえない状況になっていることを示す。佐久間信盛は信長が跡を継いだ時から支えてきた重臣中の重臣。

新参者で外部から入ってきた光秀のことを、信長は気に入っていること、さらに、信長が耳を貸す人間はほんの一部だということを示した。

これから信長は破竹の勢いで勢力を伸ばしていく。独断と偏見で世を見据え、天下布武を成し遂げようとしているのが見え始めた。光秀の言葉にも耳に貸さなくなった時、“本能寺の変”が起きるのだろうか?

 

坂本城の築城場所が表す光秀の“主君選択”

前回に引き続き見所となったのは、坂本城。光秀の居城で、安土城に次ぐ名城と謳われた壮大な城郭であった。

天主の細やかな作りは感服した。天井絵、火灯窓、高欄、釘隠しといった近世城郭でよく見られる作りがあったことは、安土桃山時代に片足を突っ込んでいる証である。

此度、天主が完成し、正室の煕子と訪れ、琵琶湖を眺めた。京と岐阜の中間にある坂本城という位置を表し、光秀に「幕府」か「信長」かを選択させようとする天晴な表現だ。

鍵となるは人質問題。戦国時代の人質とは、主君の傍に己の身内を置くこと。人質を差し出すことは不思議なことではなく、至極当然とも言える。

しかしながら光秀は、身内を人質に出してなるものかと、公方様と言えど断ることに。しかし、後に光秀は母・牧を人質に出したものの、母は信長の采配により、磔にされ命を落とす。

信長のせいで命を落としてしまう母に対する敵討ち、これが光秀が本能寺を引き起こす要因の一つとなるやもしれん。

 

松永久秀は武田信玄と繋がっていた?

松永久秀は回想登場のみだったが、重要な役回りであったことを伝える。

登場時に松永久秀は織田信長を裏切っていた。ドラマでは光秀が志賀郡を差し出すという気概を見せて戦を回避しようと奔走したが、松永久秀も戦国の人間。大事なのは命であり一族である。

戦国時代で裏切るというのは当たり前の選択であり、悪いという認識は無かった。松永は、幕府が武田信玄を味方に付けた時に裏切ったようじゃ。

実は松永自身も武田信玄と密通、矢文のやり取りをしていた。次回の登場で、光秀と信長の前にどんな面構えをするか楽しみである。

武田信玄は、前回の登場で肖像画そっくりで質の高さを見せた。

此度は武田信玄が大切にした、合議制のような場面が登場。放送時間の都合上、限られた中での演出ではあったが、当主である武田信玄が武田重臣を集めて軍議をしていた。その中で家臣に意見を求める。

武田信玄は合議制というものを使い、決め事は皆の意見を出して話し合って決めるといった、現世に通ずる制度を生み出した。

信長は一方的に決める。信玄は皆に聞く。この違いを明確にドラマで描き、信玄の見た目だけでなく人間性も表現し、人物像を深めた。

 

信長の異見書と「白鳥」の真意

信長は今回もやってくれた。17カ条の異見書を義昭に送りつけたのである。異見書だが、義昭が将軍として政や立ち振る舞いができてない、故に行動一つ一つを直すべきと記した。

内容はわりと真っ当であったが、ドラマでは「罵詈雑言」と義昭が激怒。そのため、信長は和睦に動く。ここからがドラマオリジナルになるが、和睦の為に鵠(くくい、白鳥の古名)を贈った。これを見て「何故、鳥を贈るの?」となった視聴者も多かろう。

これには深い意味がある。

白鳥は白。白というのは明らかにする、白黒はっきりしろという意味がある。つまり、異見書で突っ込んだ内容を認めろ、将軍ならば周りにそれを示せ!ととれる。

「鵠の的」という言葉を知っておるか?これは弓の的を示す。

つまり、「義昭、お主が異見書のことで周りに儂のことを悪く言うとるそうじゃな?じゃが、儂は主の将軍としての器量に対して物申しただけで、至極全うなことを伝えただけ。異見書に従わねば、お主を討つぞ」という宣戦布告とも捉えられる。

ドラマオリジナルだからこその演出、恐れ入った。

 

次回で“幕府 対 織田”という構図が完結

さぁ此度の解説は如何であったか?義昭が駒に「悲田院」の為に貯めた金子を戦の資金にしたいと告げ、戦の準備をする義昭に光秀は悲観した。改めて「訣別」という題目は、皆が義昭から訣別するという意味であった。

次回で遂に幕府対織田という構図も完結。「37話 信長公と蘭奢待(らんじゃたい)」も楽しんで参ろうぞ。

【参考文献】
・『大河ドラマガイド 麒麟がくる完結編(NHK大河ドラマ・ガイド)』
・『信長公記』
・『完訳フロイス日本史』(中公文庫)
・NHK 大河ドラマ「麒麟がくる』公式サイト

 

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