「もっと聞きたい」と思わせる“心理法則”
「今話した解法は入試で2番目によく使う解き方なんだ。1番よく使う解法は、休憩を挟んだこの次の講義で教えるから」
「今日の講義はこの途中で終わりだけど、この先がじつは一番重要だから、来週じっくり話すね」
「今回は時間の都合で詳しく話せないけどこのテーマは夏季講習会で深掘りしていくからね」
これは私が駿台予備学校時代に、化学の講師として授業で使っていたフレーズの一例です。
聞き手に「この人の話には、まだ続きがあるな」「話の先が気になる」「1番よく使う解法って何だろう」「引き出しがまだまだありそう」と、思ってもらえるように、意図的にこういったフレーズは使っていました。
実は、ここにはある心理法則が潜んでいます。この心理法則とは、認知心理学の世界で「ツァイガルニク効果」と呼ばれているものです。
ツァイガルニクは旧ソ連の心理学者の名前で、「達成した課題よりも、達成されなかったことや中断されていることをよく覚えている」という人間の記憶の仕組みを実証したことで歴史に名を残した人物です。
たとえば、中途半端なままにしている宿題や仕事、途中で切り上げて家を出てしまった家事、もう少しで親密になれそうだった異性、「これから核心へ!」というところで次巻に続いてしまった漫画......など。
私たちは「続きをやらなきゃ!」「あれ、どうなるんだろう?」といった情報の奥行きを感じたまま、「待て」の状態にされてしまうと、その物事に強く注意を向けるようになるのです。
この仕組みをよく理解してつくられているのが、先のテレビの連続ドラマの次回予告や映画の予告編です。1分にも満たない短時間の中に登場キャラクターの魅力的なシーンや次なるストーリー展開を感じさせる情報が、ぎゅっと濃縮されています。
当然、予告だけでドラマや映画のすべてがわかるわけではありません。しかし、きちんとつくられた予告にはワクワクさせる期待感があり、ときには本編よりも印象に強く残ることもあります。
テレビの連続ドラマは基本的に1週間に1回の放送です。その間、私たちは仕事をし、 プライベートのさまざまな雑事をこなし、他のドラマも観ているのに、不思議と前回のストーリーを忘れません。
「1週間前の昼ごはんは何だった?」と聞かれてもすぐには思い出せませんが、前の週のドラマのストーリーはすぐに思い出すことができるのです。
これは私たちが未完の断片である予告に触れているからこそ。そこで得た情報の奥行きが気になり、想像をかき立てられ、本編そのものの記憶も強化されるのです。
聞き手の好奇心をくすぐる話し方の“コツ”
あなたが話し手となったとき、このツァイガルニク効果を利用するときのコツは、一度にすべての情報を説明し切らないことです。
語るべき内容の一部を残し、余韻を持たせた形で話を切り上げるほうが、結果的に聞き手の好奇心をくすぐり、記憶にも残しやくできるのです。
今すぐどうしても話さなければならないこと以外は、もっと話したいと思う気持ちをグッとこらえて、その話に「続き」があることを醸し出す話し方をぜひ試してみてください。そうすることで、相手の記憶により残しやすくなります。