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フランス革命から悟る “日本社会”…「身分や階層をなくせるというのは大ウソ」

佐藤健志(作家/評論家)

2021年01月08日 公開 2023年01月19日 更新

佐藤健志

この革命は愚挙である

自国の過去を全否定する誇大妄想や独善から、どれほどのメリットが得られたか、具体的に考えてもらいたい。革命の指導者たちは、自国の祖先を軽蔑し、同時代人も軽蔑した。彼らは自分たち自身のことも軽蔑するに至り、ついには文字通り軽蔑に値する存在になりさがった。

フランスはどうにもならない災難に陥っている。しかもその代償たるや、他国が最良の繁栄を獲得するために払った代償よりずっと高い!フランスは貧しくなるため、わざわざ犯罪行為に手を染めたのだ!

これは「国益のために美徳を捨てた」という話ではない。フランスは自国の美徳を卑しめるために、国益を放棄したのである。他の国の人々は、政治的自由を確立するにあたって、より厳粛な態度を取り、禁欲的でしっかりしたモラルを重んじた。

片やフランスは、王権の手綱をいったん緩めるや、何でもやりたい放題やるのが自由だという風潮の台頭を許し、宗教を否定する言動まで放置した。

結果として、かつてなら富と権力を握っていた層にのみ見られた不正や腐敗が、社会全体に広まってしまったものの、それすら「特権のおすそ分け」のごとく美化されている。みんなで悪くなってゆくのが、新生フランスの基本原則たる平等の表れというわけだ。

以後に起きたことは当然の帰結である。革命派は、みずからの成功によって罰せられる顚末となった。法はくつがえされ、裁判所はなくなり(訳注=フランス革命にあたって従来の高等法院が廃止されたことを指す)、産業は活力を失って、商業は衰退の一途。

税金は納められず、だが人々は貧しくなるばかり。教会は略奪され、国政の危機はいっこうに解決されない。市民社会でも軍隊でも無秩序がはびこり、国家の負債をなくすために貴族も聖職者も犠牲にされる。行き着く先は、フランス自体の破産以外にない。

これらのおぞましい出来事は避けがたいものだったか? この革命は、真に国を愛する者たちが繰り広げている決死の闘争であり、さしあたっては流血と騒乱が生じるとしても、最終的には自由の原則のもと、平穏や繁栄が達成されるというのか?

否! 断じて否である。フランスの目を覆うばかりの惨状は、内戦の結果などではない。平和な時代においても、軽率で無知な政策を取ったら最後、物事がここまでひどくなるという悲しくも貴重な教訓なのだ。

抵抗勢力が存在しないばかりか、そもそも抵抗ができないようになっているとき、権力はいくらでも独善的で傲慢になりうる。革命政府はおのれの犯罪行為によって獲得した富をいたずらに浪費してばかりいるが、これを阻止する動きが生じる余地はほとんどなかった。

フランスの伝統的な国家体制は、革命を先導した者たちによって完全にぶち壊されていたのだ。革命によって権力を握った連中は、祖国を救うどころか、祖国を台なしにするにあたってすら、一滴の血も流してはいない。

彼らが払った犠牲など、せいぜい資金づくりのため、靴についていた銀の留め金を差し出した程度のもの(訳注=革命派はこのような貴金属の供出を実際に行った)。

その間にも彼らは国王を監禁し、同胞たる市民を殺し、何千もの立派な人々や、彼らの家族を涙にくれさせ、貧困と苦難に追いやった。

かかる残酷さは、恐怖に駆られたあげくのものですらない。裏切り、強奪、陵辱、暗殺、虐殺、放火すべてが正当化しうるという絶対的な安心感の産物なのだ。だとしても、いったい何がこんな事態を引き起こしたか、それは当初から明白であった。

 

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