いまや広く知られた考え方であるSDGs。利益を追求し自社の経済的価値を高めていく。そんな企業のあり方に、早急な変化が求められている。
CSR(企業の社会的責任)エバンジェリストの泉貴嗣氏は、新著『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』(技術評論社)の中で、SDGsの具体的な実践方法やよくある誤解について解説している。
本稿では同書より、経済的価値ばかり追求する企業が時代遅れになりつつある近年、企業側に求められる意識の変化について語った一節を紹介する。
※本稿は、『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』(技術評論社)の内容を、一部抜粋・編集したものです。
「売上が企業価値を決める」という考えを捨てる
企業にとって売上は自社のビジネスに対する顧客からの評価であり、報酬です。そのため、「自社の企業価値は売上、すなわち顧客が評価している」という考え方は間違いではありません。
しかし、企業の価値が次の2つの価値によって構成されていることは、正しく理解しておく必要があります。
(1)経済的価値…現金、不動産、株価など、金銭が評価軸となる価値
(2)社会的価値…地域の活性化、消費生活の利便性向上、雇用など、社会の維持発展への貢献度が評価軸となる価値
経済的価値はもっぱら直接的な取引関係にある顧客などが評価するものです。それに対し、社会的価値は従業員や地域住民などの多様なステークホルダーが評価するものです。
営利活動を目的とする企業にとって、経済的価値の重要性は明らかです。しかし持続可能なビジネスにおける経済的価値の創出には、社会的価値の裏付けが不可欠です。
なぜなら、社会的価値は「信用」と同義だからです。
地域住民に信用されなければ、地域でのビジネス拠点の開設、維持は困難になります。従業員から信用されなければ、製品やサービスの生産ができなくなります。
つまり、地域住民や従業員からの信用がなくなれば、企業は顧客から評価される機会そのものを失ってしまうのです。
これは「社会的価値と経済的価値の総合」こそが、「本当の企業価値」であるということを意味しています。
企業は「顧客からの評価だけを意識していればよい」という従来の考え方を捨て、顧客と顧客以外のステークホルダーからの評価を両立させるための具体的な取り組みを進める必要があるのです。
これまでの偏狭なビジネス観を捨てる
長くビジネスを続けていると、それぞれの企業が属している「○○業」の知識やスキル、ネットワークが「無形の経営資源」としてストックされていきます。
しかしSDGsの時代において、このようなストックは次のようなリスクとなる可能性があります。
(1)ストックが「○○業」=「○○だけをすること」という思い込み(バイアス)を強化する
(2)思い込み(バイアス)が現状の直視とリスク対策を妨げる
無形の経営資源は一定の行動の繰り返しとその成功によってストックされていきます。それは既存のビジネスモデルへの適合性、依存性を高め、ひいては「同じことを繰り返せばよい=他のことをしなくても良い」というバイアスにつながります。
ビジネス環境が今後も変わらなければ、こうした考え方でも問題はありません。しかし現実には過去に例のないESG問題が増え、深刻化しているという現状があります。
「ESG 問題」とは、ビジネスの制約要因となる、自然災害を含む環境問題(Environment)、社会問題(Social)、組織統治問題(Governance)の頭文字を取って総称したものです。
ESG 問題はビジネスの持続を脅かす問題であるとともに、わたしたちが暮らす社会の持続可能性を脅かす問題でもあり、ビジネスと社会の両面でSDGs の目標「持続可能な世界の実現」と密接に関わっています。
このような状況下で「○○だけすればよい」というバイアスに影響されると、ESG問題の重要性を正しく認識できず、必要なリスク対策が妨げられる可能性が大きくなります。
新型コロナウィルスの世界的パンデミックに見られるように、現代のESG問題は従来の「ビジネスという概念」すら変えてしまうインパクトを持っています。
もはやビジネスは、眼前の顧客満足度を追求する単純な営利行為だけでは成り立ちません。速やかに現状を直視し、ESG問題への対策をビジネスに組み込むことが大切なのです。
そのためには、「○○業」=「○○だけをすること」というこれまでの偏狭なビジネス観を捨てることが求められます。
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「雇用と納税、法令順守だけでOK」という考えを捨てる