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資本主義経済が崩壊したら“IT”だけじゃ食べられない…持続可能な社会に欠かせない「農業」

2021年02月26日 公開

出雲充(株式会社ユーグレナ社長)

出雲充 サステナブル

近年、いき過ぎた“資本主義経済”を疑問視する声があがる。その背中を押すように注目されているのが、持続可能な社会を目指す「サステナブル」というワードだ。

ユーグレナを活用した食品事業やバイオ燃料事業を行う株式会社ユーグレナ社長の出雲充氏は、著書のなかで“農業”こそ持続可能な社会の主産業になると解説する。

しかし、これまでの金融資本主義下で伸びているIT産業とは対極にあるかのような農業が、これから成長を遂げていくうえで、どのような価値観の変化が社会に必要とされるのか。

※本稿は、出雲充 著『サステナブルビジネス――「持続可能性」で判断し、行動する会社へ』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

農業と金融資本主義は、相性が最悪

私は、農業こそが、持続可能な社会の主力産業になると考えています。どういうことか説明しましょう。

現在、農業にはあまり脚光が当たっていませんが、それはこれまでの資本主義、特に金融資本主義との相性が最悪だからです。言ってみれば、金融資本主義の対極にあるのが、農業だと言えます。

金融資本主義下で行われている株式の超高速取引は、1秒間に何千回もの取引ができます。一方でたとえばコメは、日本の多くの地域で1年間に1回しか収穫できません。

リンゴも1年間に一回しか穫れません。1年間に1回しか穫れないのに、「来週には収穫できるだろう」というときに台風が来て、収穫に大打撃を与えたりするのです。

超高速取引は1秒間に何千回も取引をすることで、1億円、10億円、100億円と、儲けることができます。農業では、こうしたことは絶対に不可能です。

1年間で収穫量を2倍にすることすら難しく、仮に2倍収穫できたとしても、人々が2倍食べてくれるわけではありません。供給を増やせても、需要がそのままなら価格が下がり、結果、収穫が増えても収益は増えないのです。

GDPが10倍成長しました、100倍成長しました、マーケットが1000倍大きくなりましたと言っても、リンゴを1000倍食べる人はいないでしょう。

人口と農業生産量は深く関係していて、「人の口」が増えることでしか、農業は成長しないのです。金融の世界とは成長スピードがまったく異なるため、金融資本主義下では、農業は儲からない、ダサい産業となってしまっています。

しかし、金融資本主義が終わったとしたら、どうなるでしょうか。

1億円もっていても、コメやリンゴなどの農産物を食べなければ、人は死んでしまいます。画期的なAIソフトが開発されて、100万円を預ければ1億円にしてくれるようになったとしても、食料が存在しなければ、人は生きていくことができないのです。

つまり、そもそも、お金よりも、おいしいコメやリンゴのほうに価値がある、と考えることができるはずなのです。

農業に携わる人たちは、日々、身体をフルに使ってコメやリンゴを生産しています。だから、台風などの自然災害で生産物を収穫できなかったときなど、それがどれだけ貴重なものだったかを、身体感覚をともなって実感されます。

その感覚を私たちも共有することが、持続可能な社会では求められるのだと思います。

また、SDGsが求める持続可能な社会においては、農業的な考え方が一番フィットするのではないか、とも考えています。

農業や林業、水産業は循環社会を形づくる存在そのものであり、農林水産業を実際に行うと自然界における持続可能ということがどういうことなのか、身をもって理解することができるからです。

気候や風土の変化などによって、農産物の出来栄えや収穫量は毎年大きく変わります。それを当たり前のことと受けとめて、臨機応変に対応していくのが農林水産業です。

自然の摂理に合わせて生きていく。それこそが持続可能な社会につながるのではないでしょうか。

 

演繹的なITや金融、帰納的な農林水産

SDGsが求める持続可能な社会と相性がいいのが農林水産業だとしたら、その対極にある金融資本主義は、持続可能な社会とは相性が悪いと言えるでしょう。

そして、IT(Information Technology:情報技術)もまた、金融資本主義と相性がいいだけに、持続可能な社会とは相性が悪いのです。

ITは、金融資本主義同様に、指数関数的に発展することができます。有名な半導体の「ムーアの法則」が一番わかりやすいですが、集積回路上のトランジスタ数は、2年後に2.5倍、五年後には10倍、10年後には101倍、20年後には1万倍になると言われています。

このように指数関数的に発展していくのがITです。だから、同様に指数関数的に増える金融資本主義とも相性がいいのです。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるプラットフォーマーは、中核的な理念や価値観をもっており、それを演繹的にアメリカから世界に広げています。アメリカのシリコンバレーなどでつくったシステムや方法を、そのまま世界中に広げています。

一方、農業はそうではありません。おいしいと感じるコメは、人によって違います。コシヒカリが好きな人もいれば、ひとめぼれが好きな人もいます。究極的な一つの解というものが、そもそもないのが農業です。

ある人はマグロが好きと言い、ある人はカツオが好きだと言います。アジやイワシが好きな人もいれば、タコやイカが好きな人もいます。ですから、究極の水産業というものもありません。

一つだけの正解というものが、農業や林業、水産業などには存在しません。「これが究極の農産物だから、これを安くつくって、みんなで幸せになりましょう」とはならないのです。

まず、いろいろなことを試して、その個々の具体的な事象から一般的な命題や法則を考え出すのが、帰納という考え方です。農林水産業はこの帰納的なやり方とよくマッチします。ITや金融は逆に、演繹的なやり方とマッチします。

究極の解があるわけではないので、いろいろ試しているうちに、ある人にとってはおいしいコメができます。それが当然のことですし、誰もそのやり方を批判しません。農学とはそうした試行錯誤を繰り返すことで、多種多様なやり方を見つけ出す学問です。

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