1887年生まれの経済学者・シュンペーターの言葉が「図星すぎる」理由
2020年11月30日 公開 2022年01月13日 更新
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こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『シュンペーター 経済発展の理論(初版)』(J・A・シュンペーター著、八木紀一郎、荒木詳二訳、日経BP 日本経済新聞出版本部 刊)。著者で経済学者のシュンペーターは、現実の資本主義的な経済発展を解明する「動学」の理論をうちたてようとした。
古典名著から、現代のビジネスパーソンは何を学ぶことができるのか。詳細に解説する。
シュンペーターが企業者の本質を洞察できる背景
20世紀を代表する経済学者として、ケインズとシュンペーターはあまりに有名です。ケインズは今もなお政府の経済政策に大きな影響を与え、シュンペーターは経済の推進力となる企業者やイノベーションの分析で功績を残しています。
シュンペーターが残した印象的な言葉は、イノベーションの背景にある「新結合」の説明でしょう。その新結合の構造について詳しく語っているのが本書です。
シュンペーターは1887年、ハプスブルク朝オーストリアに属したトリーシュ(現在はチェコ領)という小さな町に生まれます。シュンペーター家は繊維工場を経営する有力な家系であったといいます。
経営者の家に生まれていたことが、シュンペーターの企業者に対する洞察の深さにつながっていると感じます。
本書はオーストリアのグラーツ大学で教鞭を取っていた1912年に執筆された、シュンペーターの出世作で代表作にもなっている一冊です。本書をきっかけに、シュンペーターは新進学者として名声を得ていきます。
アメリカに渡った後も、様々な研究成果を発信していきます。その晩年には資本主義に対して懐疑的となり、社会主義に肯定的な評価を述べるようになります。そのため、アメリカにおける主流派から孤立していき、1950年にその生涯の幕を下ろします。
では、歴史的な名著への敬意を持ちつつ、経済分野の教養とも言える内容に触れていきましょう。
静学としての旧来の経済学と動学としての本書
シュンペーターは、変化のない状態を体系化した旧来の経済学を「静学」の理論と位置づけ、発展の要素を欠き、現実と離れていると批判します。
静学を前提にすると、自由競争下では利益はゼロに収束すると言われていました。それに対して、シュンペーターは本書『経済発展の理論』において、資本主義の経済発展の構造を解明する「動学」の理論をうちたてています。
生産活動の要素を考察し、土地と労働に加え、第三の要素として労働に目標を与える「指導的な労働」に着目します。
その前提として、なぜイノベーションは起こりにくく、人が静態的な活動に終始してしまうのかを分析しています。本書では、多くの人にとって、同じことをし続ける引力が強力であることが示唆されています。
その引力の一つ目は社会的な圧力です。周りの人が規則正しく安定して行っていることを変えると、仕事上の仲間から猛烈な批判を受けます。同じことをし続ける圧力はもはや「強制力」とまで言っています。この辺りは、現代でも停滞した会社の状態を見ると、共感できるところでしょう。
もう一つの引力は、個々人の胸の中にあるといいます。新しいことをするのは、今までと違った新しい危険をたえず含んでいるため、挑戦すること自体が心理的な負担になると言われています。
人間は合理的に経済活動を行うがゆえに、これらの引力のままに同じ労働をすることが心地よく、変化を自分で起こすには高いハードルがあるのです。
シュンペーターはこのような静態的な行動を快楽主義的とまで言っています。それに対して動態的な行動ができる人を企業者と呼び、精力的だと表現しています。では、その静態への引力に打ち克つ企業者とはどのような人でしょうか。
卓越した企業者の特性
非快楽主義的で精力的な行動をとる企業者は、めったに姿をあらわさないといいます。しかし、経済の分野で抜きんでた指導者が存在するのも事実です。そのような指導者である企業者の特徴は2つあると言われています。
〈1〉行動にあたっての精力の強さ
企業者にとって、今までなされたことがないという事実は行動をためらわせる理由にはなりません。すべての可能性を同じ明瞭さで見て、その中から実行する対象を選び取ります。
他の企業からの抵抗にあっても、圧力に屈することなく戦い続けます。そして新しい商品を市場に押し付けていきます。活動の初期において損失が出たとしても、利益が出るまでやり抜く特性があります。
〈2〉動機付けの特殊性
企業者には財産や享楽に対する無関心が目立っていて、それらへの嫌悪すら見受けられます。その原動力は社会的な権力的地位につくことと、創造的造形者としての喜びだと言っています。
財産や享楽が目的ではないので、一定の収入を得たら引退しようとは考えません。アーリーリタイアをすることには興味がなく、社会的および経済的な権力的地位を示すために財産を投じていきます。