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他人から押し付けられた「こうあるべき」に苦しめられる人々

2021年05月03日 公開

鈴木裕介(内科医、心療内科医、産業医)

鈴木裕介氏 メンタルクエスト

「人生ハードモード」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。

これは生まれた環境や置かれた状況によって、自分の意志とは関係なく数々の困難が襲いかかってくることを意味するゲーム由来のインターネットスラングである。近年言われるようになった「生きづらさ」とも類似の概念だ。

秋葉原でクリニックを営む鈴木裕介氏は、著書『メンタルクエスト』(大和出版)にて、"ハードモードな人生を抜け出すヒント"をゲームのクエスト(冒険)になぞらえて解説している。

鈴木氏は、同書の中で、生きづらい人は不幸の「型」に陥りがちだといい、その特定の行動・思考パターンを「見えない敵」と名付けて紹介する。

※本稿は、鈴木裕介 著『メンタルクエスト』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

人をがんじがらめにする「べき思考」

「見えない敵」の一つは、「べき思考」、つまり「こうしなければならない」という思考のクセです。

以前、クリニックにこんな患者さんが来たことがありました。

「営業をしていますが、成果が出せなくて職場に行くのがつらいんです……。こんな私でも会社にいていいのか、本当に周りの人の役に立てているのか不安でたまりません」

話をよく聞いていくと、彼女を苦しめている「べき思考」が見つかりました。

「先月の売上目標は98%達成したんですが、上司から『99%でも未達成と一緒だ。次は100%達成するためにはどうしたらいいか考えてきなさい』とアドバイスされました。

職場の同僚とも相談して、どうしたら完璧に目標達成できるのかをいつも話し合っています。みんなはちゃんとできているのに、私だけはそうじゃなくて。次こそは、っていつも思うんですけど……」

彼女は、上司や職場の同僚から押しつけられた 「完璧でなければならない」という「べき思考」を内面化し、苦しんでいたのです。

職場には、こうした様々な「べき」がたくさん潜んでいます。

・何か問題が起こった時は、誰かのせいにせず、自分の責任だととらえて改善するべき

・何よりもまず成果を追い求めるべき。できなかった言い訳ではなくどうしたら次にできるか考えないといけない

・相性が悪いからといってチームの輪を乱すのはやめて、その人を好きになれるように自ら努力すべき

こんなふうに、「べき思考」は社内の標語として言語化されていることもありますし、上司や同僚との会話の中で無意識のうちに内面化されていくものもあります。

こうした言葉に日々触れていくうちに、彼女の中には「こうしなければならない」という思いがどんどん膨れ上がっていったのでしょう。

僕は、「少し考えてみてほしい」と彼女に言いました。

「本当に99点は0点なのかな。あなたは、たくさんの行動をとってきたわけですよね。営業の電話だって毎日かけたし、クライアントのサイトを見て勉強したり、ヒアリングだって頑張ったと言っていましたよね。

99点が0点だとすると、何もしなかったし、何も達成しなかったのと同じってことになると思うんだけど、その認識は正しいんだろうか。

よりよいものを目指そうとする姿勢は素晴らしいと思うけど、99点に至るまでの過程や頑張りを認めてあげることと、そこからの改善点に目を向けることは分けて考えてあげてもいいんじゃないかな」

それを聞いた彼女は、ハッとした顔をしていました。

無意識のうちに上司の「常識」が彼女の当たり前になってしまっていた。そして、それが自分を苦しめていることに気づかなかったと話してくれました。

 

彼女のように、他者から押しつけられた「べき思考」に気づかないまま、苦しんでいる人はたくさんいます。

真面目で人の言うことを素直に受け止める人ほど、誰かから押しつけられた「べき」を取り込み、それに合わせて身を粉にして努力してしまいがちです。

こうした「べき思考」が厄介なのは、ある時点ではものすごく効果を上げるケースがあるからです。

「99点は0点だ」という思考を持っていれば、100点を目指すために爆発的な力を発揮できる瞬間はあるでしょう。もしかすると、彼女の上司は、自分の成功体験をもとに、この発言をしたのかもしれません。

では、爆発的な力を今から何十年も発揮し続けることはできるのでしょうか。

体力に自信がある若いうちであればなんとかなるかもしれません。しかし、家庭を持ち、子育てする可能性もあります。年齢とともに体力は徐々に落ちていくでしょう。そんな中で「100点」を目指し続けることは、本当に可能なのか──。

ゲームでも、自分のレベルやミッションが変わったら、古い装備はどんどん捨てて新しいものに変えていくものです。

ただ、「99点以外は0点」といった、ハイパフォーマンスを追求する「べき」は、強いパワーをもつがゆえにそれと同じくらいデメリットもある「呪いの装備」に似ています。

自分の今のフェーズにとって、その「べき」が本当に必要なのかを考え直してみなくてはなりません。

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