「教師の勤務時間ダントツ世界一」でも保護者は不信感…教育現場に潜む“4つの大問題”
2021年06月04日 公開 2021年07月09日 更新
いま、日本の教育が危ない。コロナ禍の全国一斉休校等の「教育の危機」に際し、主体的に動く学校もあったが、多くは「受け身で指示待ち」の対応に終始し、今日まで変化に対応できずにいる。それは「日本の学校が"学習する組織"になっていないからだ」と、全国の学校現場の声を聴き続けてきた教育研究家の妹尾昌俊氏は語る。
そこで今回は、妹尾氏の著書『教師と学校の失敗学』(PHP新書)から、「日本の教育の4つの大問題」について一部抜粋・編集の上、紹介する。
子どもたちの好奇心や主体性が育っていない
今回は、コロナ危機で露呈した日本の学校教育の弱点、問題を次の4つの視点で整理し、解説したいと思います。
1.子どもたちの好奇心や主体性が育っていない
2.学校・行政は子どもたちのウェルビーイング、福祉に冷淡過ぎる
3.保護者と学校との亀裂が拡大している
4.疲弊する現場、教師の仕事はまだまだビルド&ビルド
最初の問題は、子どもたちの好奇心や主体性が育っていないことです。休校中に大量かつ一律の宿題を与えてフォローもない状態というのは、子どもたちの学びへの意欲を低くしたり、教科嫌いにさせたり、親子関係を悪化させたりするマイナス影響の可能性が高い可能性があります。
しかも、ことは宿題を出すか出さないかという問題ではなく、宿題の中身・質が問題であった可能性も高いと私は捉えています。
私が教職員向けに2020年4月上旬に実施したアンケート調査では、おおよそ9割の小中学校と8割の高校が「基礎的な知識等の習得をめざす宿題」を課しており、「思考力等を高める課題」や「探究的な学びを進めるもの」は少数でした(小中では1割未満)。
ベネッセが実施した調査でも、探究型よりも知識の習得型のほうが多い傾向がわかっています。保護者からも「写経のように漢字の書き取りばかりさせる意味がわからない」「できる子にとっては計算ドリルをやってもあまり意味はない」といった声を聞きました。
OECDのTALIS(国際教員指導環境調査)のうち、中学校教員を対象とした調査によると、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」ことについて、「かなりできている」「非常によくできている」と中学校の先生が回答した割合を比べています。
これを見ると、日本の若手(5年目以下)はたいへん自信がない状態です(他国よりも30~50ポイントも下)。
さらに「生徒の批判的思考を促す」ことについても、日本の先生たちは非常に自信がない様子です。ほかの設問「生徒がわからない時には、別の説明の仕方を工夫する」「生徒のために発問を工夫する」なども、日本は海外と比べて軒並み低いことが判明しています。
日本の先生たちは授業準備する時間や勉強する余裕も枯渇していて、授業に自信をもてていないということではないでしょうか。
コロナのあと、余裕のない教育現場では一層この問題が深刻になっている可能性が高いと予想できます。これでは学習意欲や関心が低くなってしまった子、あるいは学習に遅れがちな子を十分に引き上げる授業になっている(いた)だろうか、おおいに疑問が残ります。
学校・行政は子どもたちのウェルビーイング・福祉に冷淡過ぎる
2点目は、学校や行政が子どもたちのウェルビーイング(幸福)や福祉のことを軽視してきたことです。
具体的にはステイホーム期間中、ほとんど支援やケアがなく、学校再開後はつらい思いをしてきた子どもたちの思いと状況はそっちのけで、学校行事や夏休みのカットや土曜授業などに邁進してきたという点です。
休校にするとか、公共施設を閉鎖するといったような極端な政策を採るか、あるいはこれまで通り、例年通りで進めるか。本当はこのような極端な選択肢ばかりではなく、そのあいだ、ないし第三の道があったはずです。
たとえば、家にオンライン学習する環境がない子や、家にいては親子関係やきょうだい関係でつらいという子が勉強したり、遊んだりする空間が休校中も学校内や公共図書館などであってもよかったのではないでしょうか。
「9時~11時は小学生1~3年生まで最大で20人まで入れます」などと一定のルールを決めて運用すれば、感染リスクもそう高まらなかったことでしょう。
一部の自治体では学校の一部を開放してICTによる学習の場を設けていました。英国では学校を休校しても弱い立場の子たちには開けていたそうです。
「どうせ大したことはできない」「既に予算で決まっていて、変えるのは大変だから」といった発想ではなく、本当に支援を必要としている子どもたちのためにできることはないか探すのが、公務員の仕事というものでしょう。