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中学数学レベルでもメディアは勘違い? コロナ禍の「接触8割減」の正しい意味

小山信也(東洋大学理工学部教授)

2021年07月02日 公開 2021年07月07日 更新

中学数学レベルでもメディアは勘違い? コロナ禍の「接触8割減」の正しい意味

「接触機会の8割削減」など、コロナ禍では当初からさまざまな数字が飛び交ってきた。根拠が正しく伝わらず、数字だけが一人歩きしている例も少なくない。

流れてくる数字を何となくの印象で判断しないために、意識すべき考え方とは? 東洋大学理工学部教授の小山信也氏は新著『「数学をする」ってどういうこと?』の中で、「ものごとを数学的に考える」ための要点をまとめている。

同書では、高校生の景子、中学生の優、数学者のゼータ先生の3人による会話形式で、数字と正しく向き合うコツが解説される。ここではその中から、新型コロナ流行の初期において、「8割の接触削減」が掲げられながら実際には「6割の人出減」で第一波が収束したのはなぜか、その理由を考える一節を紹介したい。

※本稿は小山信也 著『「数学をする」ってどういうこと?』(技術評論社 刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

「人出」と「接触機会」は別のもの?

【優】「6割削減で第一波が収束した理由」が、わかるんですか? 

【ゼータ】それはね、数値を正しく理解すれば、自然とわかるんだ。

【景子】「8割」という数値の意味ですか?

【ゼータ】そうさ。これが、「接触機会の8割」だということは知っているよね。

【優】はい。緊急事態宣言でも、そのように言っていました。

【景子】感染は接触で起きるから、接触機会の削減が重要なんですよね。

【ゼータ】 一方、「6割しか削減できなかった」とは、どういう意味かな?

【優】「人出が6割しか減らならかった」という意味です。ニュースでは、街に出ている人数をカウントしていたと思います。

【景子】テレビで、「外出削減が6割しかできなかった」とも言っていましたが、これも同じ意味だと思います。

【ゼータ】そうだね。各個人の「外出」を合わせたものが「人出」だから、削減率を考える上ではどちらも同じだね。

【優】「外出」と「人出」は同じでも、それと「接触機会」は違うんですか?

【ゼータ】実はそうなんだ。例を挙げて説明しよう。

 

「6割人出減」で接触が「8割」減る?

小山信也

【ゼータ】お父さん、お母さん、お姉さん、妹さんの4人家族が、2組で会食をしたとする。この会食でお父さんに生ずる接触機会は、いくつかな?

【景子】相手の家族の4人とそれぞれ接触しますから、4つです。

【優】お母さん、お姉さん、妹さんの3名についても、それぞれ4つの接触機会が生じます。

【ゼータ】この会食で生ずる接触機会の総数は、いくつだと思う?

【景子】4人家族のそれぞれに4つの接触機会なので、4×4=16です。

【ゼータ】さて、「5割の外出削減」をしたとしよう。会食の出欠はどうなるかな。

【優】4人家族のうち、2人が出席となります。

【ゼータ】両家族とも、お父さんとお母さんが出席したとしよう。この会食で生ずる接触機会の総数は、いくつになるかな?

【景子】お父さんは、相手のお父さんとお母さんの2人と接触するから2つ。お母さんも同様に2つなので、2×2=4です。

小山信也

【ゼータ】結局、「5割の外出削減」で、接触機会の削減は、どうなったと思う?

【優】16から4になりました。

【景子】4分の1に減ったことになります。75%の削減です。

【ゼータ】わかったかい。外出を50%削減すれば、接触機会は75%削減される。これが「接触機会の削減」なんだよ。

【優】「接触機会の削減」と「外出・人出の削減」は、別のものなんですね。

【景子】8割削減するのは接触機会であり、外出ではなかったのですね。外出を8割削減しなければならないと、勘違いしていました。

【ゼータ】では、接触機会を8割削減するには、外出を何割削減すればよいと思う?

【優】「外出5割」で「接触機会75%」が削減できたので、あと少しですよね。

【景子】あと5%で80%だから、わずかですよね。

【ゼータ】その通り。5割を少し上回ればよいだけだから、6割で十分なんだ。

【優】あ、「人出が6割しか減らなかった」は、それでよかったのか。

【ゼータ】結局、「接触機会の8割削減が必要」という緊急事態宣言の要請は、達成されていたんだよ。

【景子】だから、第一波が収束したわけですね。

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「外出」が2倍、3倍になれば「接触機会」は4倍、9倍に

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