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"祝日"を増やしてきた政府の思惑…日本人の「労働時間減少」のからくり

2021年07月22日 公開

山岡信幸(東進ハイスクール地理講師)

山岡信幸

世界から働きすぎと揶揄されてきた日本人の労働時間は一見短くなったように見えるが、非正規労働者の短時間労働や名ばかりの管理職のサービス残業が、労働時間減少のデータの裏にあると『教養としての地理』の著者山岡信幸氏は語る。

批判を避けるため祝日を増やしてきた政府の思惑とともに、短い祝日が日本人の観光にどうのような行動をもたらしたのかを明らかにする。

※本稿は、山岡信幸 著『教養としての地理』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「企業戦士は24時間戦う」がまかり通った80年代

1980年代の後半、日本人は世界中から「働きすぎ」だと批判されました。頑張ってるのに怒られるなんて割に合わないですが、当時は日本製の工業製品の欧米への輸出増により、日本の貿易黒字が突出して拡大していましたから、「ソーシャルダンピング」だと苦情が出たのです。

あまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、低賃金で長時間、労働者をドレイのようにこき使って作った安上がりな製品を、不当な低価格で輸出してるじゃないか、というわけです。歴史的には、世界中が恐慌に苦しんでいた1930年代の日本貿易を批判した用語で、バブル期の日本に亡霊のように戦前から蘇ったわけです。

バブルの真っ只中の1988年、栄養ドリンク「リゲイン」(三共=現・第一三共ヘルスケア)のCMソングの歌詞が流行語になり、CD化されて60万枚の大ヒットとなりました。

1日24時間働き続けることを奨励するその歌詞は、当時の企業戦士たちの長時間労働を象徴する一種の「軍歌」のようなものでした。まずは、労働時間の推移をグラフで見ておきましょう。

OECD(経済協開発機構 )による元データは、労働時間の定義や、統計のとり方が国ごとに異なるため、それぞれの国における推移を知ることはできても、国際比較には使えないものです。それでも大まかな傾向は摑めると思います。

山岡信幸

 

日本人の労働時間のからくり

たしかに、1980年代までの日本の労働時間はきわめて長かったのですが、前述の国際的批判に対応して、労働基準法の改正で法定労働時間を週48時間から段階的に40時間まで引き下げました。

1日8時間と2日制して、週6日働いていたのを5日に減らす、つまり土日を休みにする週休です。1997年までに中小企業も含めて完全実施されました。1年は52週だから年間では約2100時間。

そこから、祝日や有給休暇の分を引くと1800時間くらい、というのが2000年頃の数字で、その後も短縮してアメリカ合衆国と逆転しています。以前から短時間労働だったヨーロッパ諸国との差はあるけれど、ずいぶん改善されたイメージです。

ただし、この数字には2つの「からくり」があって、額面通りには受け取れません。

まずは「サービス残業」。グラフの出典であるOECDのデータの元は、日本の厚生労働省が事業所を対象に調査したものであり、勤務としてカウントされないサービス残業や休日出勤は含まれていないのです。

それらを含む総務省労働力調査(世帯を調査対象にしたもの)の数値によると、最新のデータでも2000時間近く働いています。こちらのほうが実感に合うでしょう。

お隣の韓国では極端な長時間労働を急ピッチで是正中ですが、その韓国の労働時間と同じくらいです。日本では「名ばかり管理職」による賃金の支払われない残業など、実態が覆い隠されている分、以前よりひどくなっている面もあります。

もう1つのからくりは、グラフのデータにはパートタイム労働者も含まれていること。近年の新自由主義的な労働政策で、派遣労働や偽装請負などの流動的で不安定な雇用形態が拡大しており、パートタイムの非正規労働者も増えています。

そのため、全労働者の平均を取ると、労働時間が短縮されたことになるのです。背景には雇用における男女格差もあります。長時間労働の多い男性と、パート勤務の低賃金に甘んずる女性という構図です。

日本よりずっと労働時間の短いオランダにも、女性のパートタイマーが多いのですが、「フルタイム労働者とパートタイム労働者は労働時間数に比例して平等に扱わなければならず、両者の時給、社会保険への加入、雇用期間、昇進等の労働条件に差をつけることを禁じる」という同一労働・同一賃金のルールが確立しており、ワークライフバランスの取れる労働時間を自由に選択できるのです。

積極的なパートタイム就労によるワークシェアリングで、女性の社会参加率が高くなった結果なのです。

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