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思春期の指導がカギ…五輪、甲子園...大舞台で10代が物怖じしない理由

仁志敏久(横浜DeNAベイスターズファーム監督)

2021年08月16日 公開 2022年06月09日 更新

思春期の指導がカギ…五輪、甲子園...大舞台で10代が物怖じしない理由

スケボーや水泳、体操など新世代の台頭が目立った東京オリンピック。10代アスリートの教育方法にも注目が集まった。若くして大舞台で活躍するのに必要な条件はあるのか。

本稿では、「第5回WBSC U–12ワールドカップ」において侍ジャパンを過去最高成績の準優勝に導き、現在、横浜DeNAベイスターズファーム監督を務める仁志敏久氏が、子どもの能力を最大限発揮させるための方法についてご紹介する。

*本稿は、『指導力 才能を伸ばす「伝え方」「接し方」』 (PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

 

成長の分岐点になる「思春期の指導」

ビジネスのシーンでは、相手のキャリアに応じて話し方や話題を変えたりします。社会人経験が数年違うだけで、「成熟度合い」は大きく変わるからです。

子供の場合は、その差が大人以上に顕著に表れます。

2019年、WBSC U–12ワールドカップに出場した侍ジャパン。その選手の割合は、中学1年生(早生まれ)が3分の2を占め、残りは6年生でした。やはりこの年代になると1年、半年でも年長のほうが体力、技術ともに優位になります。

性格的にも、子供っぽさの残る6年生に比べ、中学生には知恵がつき、ある意味計算高くなっているなどの傾向が見られ、思春期に入ったことを感じさせる子が多い。おそらく、接し方が難しくなったと感じている親御さんも多いのではないかと想像します。

自分自身もそうでしたが、中学生になると親の手からも少し離れ、小学生のころよりも自由を感じるようになる。親の見ていない時間が増えれば、これまでにない行動も考え出す。理屈、屁理屈をよくこねるようにもなり、よくない考えを起こすのもこの時期の特徴です。

大人の言うことが絶対と思っていた小学生から、じつはそうでもないことに気づき始め、反抗期に入っていく子もいます。子供たちと日々接しながら、親として毎日対応するとしたら難しいだろうなと思いつつも、その実、成長過程ではごく自然なことなのかもしれません。

中学生を見ていると、その時近くにいる友達や先生、スポーツなどの指導者によって人間性が左右され、いかにいい影響を与える"他人の力"が重要かということも感じます。

教育的な部分にも工夫が必要であり、人として対等に接してあげる場面とまだ子供であると寛容に見る場面の使い分けをよく考えなければならない。同学年でも一人ひとり心身の成長の度合いも違うため、そこもよく見ておくべきだと気をつけていました。

些細な言葉のかけ方、接し方にも気を配る必要がありますし、見て見ぬふりをすべき時もあれば、見逃してはいけない場面も当然あります。

全体に目を配りつつ、それぞれの子供たちの行動や表情、話を聞く姿やその後の反応、子供同士の会話の話題やチームへの溶け込み方など、見えたこと、聞こえたことに焦点を合わせることも、子供たちのタイプを把握するためには重要です。

その瞬間がもととなり、それぞれの子供たちに合わせた伝え方や話す内容がわかってくるからです。

要するに、子供たちを前にした時、指導者はつねにアンテナを張っていなければいけないということです。

子供たちは時の流れとともに成長していきます。その時の流れのなかには、修正すべきポイントや、変化、岐路となる瞬間が随所にあります。その瞬間こそが将来への方向性を導き出すチャンスであり、可能性を具現化していく一つのタイミングだと思います。

思春期の子供たちにとって興味を引かれるものというのは、次から次へと手の届きそうなところにやってきます。

そのなかで、いいものとそうでないものとを判断し、物事の分別や生活におけるメリハリのようなものを感じ取る力、自制する力は徐々にでもつけていけることが望ましい。自分の気持ちや行動を上手くコントロールする力は、大人になって最も必要とされるものだからです。

思春期の子供に完璧を求める必要はありませんが、成功、失敗の体験などから学んで生かすことは求めていくべきだと思います。

 

合宿や海外遠征で期待できる効果

指導において、私が最も大事なコンセプトとして考えているのが「自立」。厳密に言えば「自立を促す」です。自立とは、自分で考え、行動すること。自分の意思をもって主張し、人の意見を聞いて答えを探し出せるような人のことです。

小学生や中学生に完全な自立を求めるのは無理がありますが、大人に頼らず、周りに左右されずに自分にとって必要な考え方や行動を選択できるような人間になるきっかけを作ってほしい。その機会が、合宿や海外遠征です。

子供たちにとって、親元を離れ家族や知り合いのいない生活を一定期間送る機会はそうはありません。けれど、「いままで家族に頼っていたけれども、じつは自分でできる」ということは、毎日の生活のなかにいくつもあります。合宿や遠征はそれを実感できるいい機会なのです。

たとえば、朝、目覚まし時計を鳴らして自分で起きる。起床後は自分で準備したものを着て集合場所へ向かう。寝坊した仲間がいないか確認し、いなければ呼びに行く。

食事は毎回バイキング形式のため、自分で食べ物を選ばないといけません。チームに合流後すぐに栄養講習があることもあってか、バランスよく食べる子もいますが、誘惑に負け、揚げ物ばかりが皿に盛られている子も。開催国によっては子供の苦手なものが多く並ぶこともあります。

そのなかで、我慢したり、栄養を考えながら食べ物を選べる子は、「自立できているなぁ」と感じます。厳しくは言いませんが、食事においてもある程度の自制を期待しています。

若い選手を指導する際、つい「できていない」部分を見てしまいがちですが、「自分で選択できている点」があればそれを認める姿勢は、自立を促すにあたってはとても大事です。

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上達する人は「目標」が明確

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