無意識の敵意が人生を滅ぼす
アドラーは「攻撃的不安」という言葉を使っていますが、まさにその通りで、心配、不安というのは、助けを求めるシグナルとして機能します。
今の時代は、無意味な情報があふれていて、人々は時代に置いてきぼりにされているかのような不安にも悩まされています。悩んでいる大人は、様々な理由から「助けて」と叫んでいるのです。そして子どもと同じように、助けを求める一方で、それと同時に攻撃性を表しています。
「ある型の不安が攻撃感情の土台をなしていることはしばしば発見されることである。」(前掲書『不安の人間学』57頁)
言い換えると、怒っている人は多くの場合、不安に悩まされているということです。何かあると、すぐに傷ついて怒る人たちも不安なのです。
「不安と劣等感と敵意は、深く結びついて、そのパーソナリティーを形成している」
つまり、不安の様々な症状がパーソナリティーとして表現されます。
「なぜ、妻の出迎え方一つで、そんなに怒ってしまうのか」それは、結局その人が、こういうパーソナリティー、つまりは、その人は不安を抱えていて、意識と無意識とが乖離しており、劣等感が強く無意識に隠された敵意を持っているからということです。
こういう人はおそらく、自分の心の底にある隠された敵意に気がつくだけで世界が驚くほど違って見えます。物の感じ方、認識の仕方が一変し、周囲の世界はその人にとって、まったく別の世界になります。
自分には隠された意識があるから、こんなふうに様々なことを感じるのだと気づくと、世界に対する感じ方が変わってくるのです。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。