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社会

元自衛官の校長先生を驚かせた「教育現場の事なかれ主義」

竹本三保

2021年10月05日 公開 2023年09月12日 更新

 

山本五十六「率先垂範」

赴任した一、二年の間は教員一人ひとりと徹底的に話して、提案を出してもらおうとしましたが、本当に取り組んでくれるのかという思いもあったのか、なかなか出ませんでした。「これをやってみたい」と言ってくれるようになったのは、三年目のことです。それには伏線的なことがありました。

校長となって一年目の平成24(2012)年度に、大阪府教育委員会が提示した『校長マネジメント推進事業中期計画推進費』のコンペがあり、狭山高校も参加をして選定されました。

これによってグローカルルームをつくり、イングリッシュランチ(昼休みにお弁当を持ち寄り、英会話を楽しみながらランチを食べる)や姉妹校等とのインターネットを介した交流を行い、当時としてはまだ珍しかったiPadを教材として導入するという予算をとり、実行しました。

これは校長が自ら手を挙げて自身が取り組みたいことを資料にまとめ、プレゼンするなどして選定されたのですが、これを見て教員たちの私を見る目が変わっていき、信用して提言をしてくれるようになったのではないかと思っています。とにかくここまでなら大丈夫だろうということは、校長として片っ端からやっていきました。

『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』

これは連合艦隊司令長官、山本五十六の言葉ですが、まさにその通りだと実感をしています。リーダーは椅子に座って口で指示を出すだけではなく、「率先垂範」ということを意識しないと、人の気持ちを動かし、まとめ、行動にまで導くことはできません。

もっと言うならば、できる人だからできるのではなく、必死にやってみれば誰でも"できるんだ"という自信をつけさせ、誇りを持たせる役割もあろうかと思います。

 

生死を共にしてくれる部下に巡り会う

『それぞれの職場で出会った仲間を大切にし、自らの信条及び心情を語り、いざという時に生死を共にしてくれる部下と巡り会うこと』

私は、これが自衛官(リーダー)の、究極の目標ではないかと考えています。階級が上であるなら、命じられたら基本的には部下は従うことになっています。けれども、自分の本当の気持ちとして快く従っているのかどうかは別の話です。

もしかするとその階級に対して従っているだけかもしれません。普段から「この人のためなら」「この人にならついて行きたい」とならなければ"生死を共にしてくれる"こともないでしょうし、階級章を外したとたんにみんな離れていくことになるのです。

リタイアした後でも、「あの時は大変やったけど、楽しかったなあ」と言い合える仲間が多い方が絶対に幸せだと思いますし、最終的に人生というものは、『一緒に死んでくれる人を探す旅』だと思うのです。

元自衛官らしく物騒だなとお思いかもしれませんが、真剣に人生を生きていこうと思えば、そこに行き着くのだと私は信じています。もちろんこれは自衛隊組織に限らず、学校でも会社でも家庭でも、同じことがいえるのではないでしょうか。

リーダーの立場にありながら、責任逃れをして自己保身に走ったり、パワハラやセクハラをしたり、部下を守ろうとしないのでは、信頼関係どころか嫌悪されて人心は離れて行きます。

そうならないためにも、日頃から自分自身を磨いて、固い絆、信頼関係の中で部下と仕事をすることで、人生がより豊かになると思うのです。真の指揮官、リーダーというものはお飾りであってはいけません。

自分のことはさておき、まわりや部下のことを第一に考え、よき方向へと導かなくてはなりません。そしてそのためには絶対的な"覚悟"というものが必要です。逆に言えばその覚悟なくして本物のリーダーにはなれないのです。

たまたまと言いますか幸いにもと言いますか、私は"国防"と"教育"の前線でリーダーとなり、リーダーシップを発揮してきました。国を守り国民の命を守るということ、そして人を育てるということは、この二つのいずれの現場も緊張感があって厳しく、過酷ゆえにここでの経験、実学としてのリーダーシップや教育に対する考え方は、どの組織にも生かせるのではと考える次第です。

 

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