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認知心理学が解き明かす「子どもの体内記憶」の真相

石川幹人(明治大学教授)

2021年10月15日 公開 2022年03月07日 更新

 

記憶は改ざん可能

じっさいに記憶が後から作られやすいことが、実験によって示されています。親の了解を得たうえで、迷子になったことがない子に「小さい頃、迷子になったこと覚えている?警察に保護されてお母さんが迎えに行ったらしいよ」と聞くと、そのときは「覚えてない」と当然言うのですが、1カ月ほどたってからもう一度聞くと、「思い出した。親切なお巡りさんが泣いている私にキャンディをくれた」などと言い出すのです。

また、子どもだけでなく大人にも、こうした記憶の変化が多く観察されています。大きな事件の報道を知ったときに何をしていたかという回想調査では、事件が起きた直後の回想記録と1年後の回想が大きく異なることが知られています。回想とは過去の体験を思い出すことです。

単に忘れたのではなく、1年前の回想時に交わした別の会話の内容が、1年後には自分の体験として回想内容に埋め込まれていることさえあるのです。

 

記憶は絆に変換して伝える

どうも、私たちは会話を通じてありそうな出来事を想像し、それを過去の体験として記憶してしまうようです。しかし、私にとって"折り紙のかご"は否定できないありありとした体験です。もともとは想像だったとしても、記憶があること自体は事実です。

おなかの中にいた頃のことを覚えている人も、その記憶があることは確かです。しかし、周りの人々は自分がお母さんのおなかの中にいた頃のことは覚えていないですし、そうした記憶が後から作られることもあるとすれば、お母さんも当惑して「その記憶は想像で作られた」と思うのもやむを得ないことです。

そこで、言い方を変えてみましょう。「私には、お母さんのおなかの中にいた忘れられない記憶があります。それほど、お母さんとの結びつきを強く感じるのです」こう言えば、お母さんも喜んでうなずいてくれるのではないでしょうか。

 

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