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認知心理学が解き明かす「子どもの体内記憶」の真相

石川幹人(明治大学教授)

2021年10月15日 公開 2022年03月07日 更新

認知心理学が解き明かす「子どもの体内記憶」の真相

「なぜ穴を見るとのぞきたくなるの?」「普通って誰が決めるの?」「怖い夢をみないようにはできないの?」ー子どものころ、こんな疑問を持ったことはないでしょうか。その疑問、学者が本気で回答します!明治大学教授で認知心理学、進化心理学の第一人者の石川幹人氏が実際の小学校6年生まで子どもたち、または大人が子どもだったころに抱いていてた疑問・難問に全力でお答えました。

本記事は『なぜ、穴を見つけるとのぞきたくなるの?』(朝日新聞出版)からの一部抜粋です。

 

「お腹の中にいた時の話を覚えている」は本当?

実は3歳までの記憶は、ほとんど後から作られていると考えられています。例えば私の小さい頃のあざやかな記憶は、3歳のときに親に連れられて行った幼稚園の入園準備審査の様子です。

そこでは、先生に手を引かれて机の前に座らされ、絵本を読んで聞かされました。でも、読み聞かせがすぐに退屈になった私は、別の机に置かれた玩具に興味をひかれ、勝手に歩き回ったところ、先生に元の机まで引き戻されました。

そのとき「全部終わったら、これをあげますよ」と、終了のごほうびを見せてもらいました。そのごほうびは、折り紙で作られたきれいなかごで、中にキャンディが三つ入っていました。一応納得した私は、もとの机にいったん戻ったものの、退屈な時間に耐えきれず、また歩き回ってしまいました。

その審査は、すべての机を順番に回れる落ち着きのある子が合格だったようです。私は二つ目の机に行くことなく、終了のごほうびを持って帰されました。帰り道、私はごほうびをもらってうれしかったのですが、親は悲しそうだったのを覚えています。とうぜん、幼稚園への入園は1年遅れました。

私にとってこの出来事の記憶は、たいへん鮮明です。とくに折り紙のかごは、それまで見たことのないデザインで強く印象に残っています。

 

3歳までは体系的な記憶ができない

さて、こうした幼少期の出来事の記憶を、心理学ではどのようにとらえているかをお話ししましょう。まず、多くの人において3歳までの出来事の記憶はほとんどありません。

この理由は、その時期に脳が急速に成長するので、体験の部分的な記憶があったとしても、脳の成長によって配線が変わり、いつどこで誰が何をしたというような体系的な記憶として残らないからです。

また、私のように、たとえ3歳のときに体験した出来事の鮮明な記憶があったとしても、それを「3歳のときの体験をそのまま覚えていた」とは判断しないのです。

たとえば、小学校にあがってから親に「あなたは落ち着きのない子で、幼稚園の入園準備審査に連れて行ったら、暴れまわって不合格になったのよ」と言われ、当時のことを想像した結果、鮮明な記憶が作られたのではないかと考えられるのです。

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記憶は改ざん可能

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