1. PHPオンライン
  2. くらし
  3. 先史時代から変わらない「穴があるとつい覗いてしまう」人間の原理

くらし

先史時代から変わらない「穴があるとつい覗いてしまう」人間の原理

石川幹人(明治大学教授)

2021年10月19日 公開 2022年03月09日 更新

先史時代から変わらない「穴があるとつい覗いてしまう」人間の原理

「なぜ穴を見るとのぞきたくなるの?」「普通って誰が決めるの?」「怖い夢をみないようにはできないの?」ー子どものころ、こんな疑問を持ったことはないでしょうか。その疑問、学者が本気で回答します!明治大学教授で認知心理学、進化心理学の第一人者の石川幹人氏が実際の小学校6年生まで子どもたち、または大人が子どもだったころに抱いていてた疑問・難問に全力でお答えました。

本記事は『なぜ、穴を見つけるとのぞきたくなるの?』(朝日新聞出版)からの一部抜粋です。

 

なぜ、穴を見つけると覗きたくなるのか?

それは塀の向こうに役に立つものがないか、調べたくなるからです。私たちの祖先が森や草原で暮らしていた先史時代は、木の実や草の根を食料にしていました。そうした食べ物を探しにいくと、木の幹に穴があったり地面に穴があったりします。

穴を広げて中をのぞいてみると、食べられる小動物が見つかることが多かったのです。こうして人類は穴が合ったら「いいものが見つかるかもしれないぞ」という好奇心が刺激され、つい中を調べたくなるように進化したのです。

つまり、ワクワクする好奇心があるほうが、食料を見つけやすくなり、生存競争に勝てたからです。今日でも多くの人は、塀に囲まれたところがあれば、どこか間を見つけて中を見たくなります。好奇心だけでなく警戒心から見たくなることもあります。

工事現場が囲われていると、何か危険な物が隠れていないかと心配になり、内部を調べたくなるのです。最近では、地域に工事の様子をオープンにしようと、塀の一部に透明な板を使用したりわざわざ穴を設けたりする業者も増えてきました。

最近では、動物園がこの「のぞきのワクワク感」を取り入れています。昼は寝ているばかりの夜行性の動物をオリの中に見つけても「なんだ寝ているのか」と残念な気分になりますが、ねぐらに「のぞき穴」を設けて「中をのぞいてごらん」とうながすと、来園者は動物の寝顔を楽しめるのです。

 

秘密も除きたくなる穴

しかし、動物園や工事現場でなく住宅の場合には、塀の穴や間があってもけっして内部をのぞいてはいけません。というのは、誰でも他人には知られたくない秘密(プライバシー)があるからです。

それに加えて、のぞいているところが誰かに見つかると、住宅に空き巣に入ろうとしている泥棒ではないかと、疑いがかかります。私たちは、食べものを得ることと同じように、人の秘密を知ることでもワクワクします。

いわば、人の秘密も「蜜の味」なのです。その理由は、人の秘密を握ると、その人との親密な関係づくりが期待できるからです。さらに、その秘密自体をみんなに話したり、秘密をもとにしてその人の悪口を言いふらしたりすることも、ワクワク感のもとになってしまいます。

「みんなは知らない情報を自分は持っている」という、ある種の優越感が生まれるからです。現代の社会では、私たちが本能的にワクワクする「穴のぞき」を、時と場合によっては禁止行為としています。禁止されているのですから、ワクワクしても、ぐっとがまんしないといけません。

次のページ
禁止されるほどやりたくなる理由

関連記事

×