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生き方

さだまさし演じる「カムカムエヴリバディ」の平川唯一~戦後日本をラジオ英語で明るくした人

平川洌(ホリー商事代表取締役、カムカム英語センター・リーダー、ウクレレ・ソリスト))

2021年11月27日 公開 2021年12月07日 更新


 

父はアメリカの文化を日本人に知ってほしかった

父はアメリカに19年間いたわけですけども、アメリカの文化を肌で感じて、ほんとうに民主主義は素晴らしいということを実感したのだと思います。アメリカでは、頑張れば誰もがトップにもなれるし、夢も叶うということですね。父が日本に帰ってきてラジオ放送でいちばん伝えたかったことは、じつはそのことだったのかもしれません。日本にはない、素晴らしいアメリカの文化を視聴者に知ってほしいという思いはそうとう強かったようです。

たとえば、いまでは当たり前の行事になりましたけど、「Valentine’s Day」(バレンタインデイ)というのがありますよね。この「Valentine」は、「カムカム英語」のテキストのダイアログにもあるんですが、これがおもしろいのです。

Do you know anything about Valentine?(バレンタインのことを知ってる?)と聞くと、相手の日本人が、I don’t know Valentine, but I know Japanese RENTAN.(バレンタインは知らないが、練炭は知っているよ)と答える。そういうシャレを交じえたりしているのです。

「エイプリルフール」もそうでした。父は「今日で放送は終わりますよ」なんてお茶目な冗談を言ったりしながら、紹介したりしています。

それと、金曜日、もしくは土曜日にはアメリカ人のゲストを呼んでいました。時にはイギリス人も呼んでいました。ゲストは総勢400人くらいになると思いますが、父は必ず英語でインタビューをするわけです。そのインタビューも、聴取者がわかりやすいように、ゲストが書いてきたスクリプトを父が書き直して放送していました。父はハリウッドでも、こういうスクリプトを書いた経験がありますし、事前に準備して人前でものを話すということには、やはり長けていたと思います。

こうして父は、アメリカの文化を日本の人に伝えたいという思いで、番組づくりをすすめていたのです。

 

そして「カムカムエヴリバディ」が誕生

父は、「日本はアメリカと違って、たくさんいい童謡がある」とよく言っていました。帰国後、父は日本の童謡を何とか英語にしたいという気持ちがあったらしいのです。

そんななかで、「カムカム」の仕事をいただいて、父は「あっ、『しょしょしょうじょうじ』の歌を替えてみよう」と思い立ちます。

Come, come, everybody.
How do you do, and how are you?

メロディーを同じようにし、いわゆる翻訳ではなくて内容は変えて、「皆さんいらっしゃい」というような楽しい歌を作って、流行らせたのです。その当時は『リンゴの唄』も流行っていたのですが、父は、「『リンゴの唄』はちょっと暗いよ。『カムカム』の歌は明るいんだ」と、言っておりましたね。

「しょうじょうじのたぬきばやし」の作曲は中山晋平さんですが、木更津のご自宅まで許可をいただきにいって、「カムカムエヴリバディ」のテーマソングにしたわけです。今でもご高齢の方が、「私、英語の放送は聴かなかったけれど、あの歌はちゃんと歌えるんです」という人がたいへん多いのです。

先日、伊東四朗さんにお会いしたのですが、やはりそうおっしゃっていて、その場でフルで歌ってくださいました。伊東四朗さんは、「『カムカム』のおかげで、私は中学校の英語は全部Aでした」とおっしゃって、感謝していただき、照れ臭かったんですが、たぶん父もそれを聞いていたら喜んだんじゃないかなと思います。

「カムカムエヴリバディ」のこのメロディーで、みんなを明るくしよう、みんなで英語遊びをしてほしい、そんな気持ちで、いままでの英語講座の放送にはなかったテーマソングを作ったんだと思います。

父は、性格的には完璧主義者でした。じつはたいへん不器用な人なのですが、そのくせ完璧じゃないと気が済まないタイプでした。だから放送の準備はもちろん、テキストを作るのでも、毎日毎日夜遅くまで頑張っていたのを、私はずっと横で見ていたものです。

この本(PHP文庫『「カムカムエヴリバディ」の平川唯一』)では、私が知っている父のエピソードをたくさん紹介しています。また、当時の時代背景などにも触れていますので、一つの歴史の本として手に取ってもらえたら嬉しいです。

朝ドラを3倍、4倍楽しんでいただくためにも、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。

(2021年9月16日 談。本稿はPHP研究所公式YouTubeの収録内容を一部編集して掲載しております)

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