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「売り物にならない、殺処分してほしい」皮膚炎を患い心閉ざした犬を救った1匹の猫

猫びより編集部(辰巳出版)

2022年02月18日 公開

「売り物にならない、殺処分してほしい」皮膚炎を患い心閉ざした犬を救った1匹の猫


仲良くまどろむビブ(右)とチャァ

猫に生かされている。冗談でも大げさでもなく、骨の髄からそう感じている人は少なくないのではないでしょうか。とりわけ、偶然出会ったいわゆる「保護猫」によって、驚くほど人生が変わったり、人生が豊かになった、という話は本当によく聞きます。

身も心もボロボロになった犬の相棒となった猫は、すべてを受け入れて献身的に寄り添い、生気のない目を甦らせました。そして、犬は相棒に教わった優しさで我が家に来る者たちを包み込むのでした。(写真:ふじおかすみ、文:斎藤実)

※本稿は、『猫にひろわれた話』(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

認知症の犬に寄り添う猫

猫びより編集部
晩年のコロッチと添い寝するビブ

2013年9月、兵庫県に暮らすふじおかさんが、いつも車で犬を散歩させにいく原っぱから帰る道中のことだった。ある細い路地の真ん中にポツンと黒い子猫がたたずんでいたのが見えた。安全な場所に連れていこうとふじおかさんが車を降りると、子猫は自分で路肩に避難していた。

人懐こくて、初対面なのに首をすりつけてきたが、どうやら飼い猫ではないらしい。このまま放っておくと本当に事故に遭いかねない。ふじおかさんは、子猫を自宅に連れ帰ることにした。

後日、地域猫のお世話をしている人に確認したところ、子猫は同じ年の春に野良猫が産んだうちの1匹で、きょうだいに比べると早産で生まれたかのように体が小さく、頼りなさげだったという。少し脚が不自由なようで、ジャンプや素早い動きなど猫らしい動き全般が苦手らしい。初対面の人に懐いたのは、外で生き抜く力がないのを自覚した上での処世術だったのかもしれない。子猫は正式に迎えられ、ビブ(♂)と名づけられた。

当時、ふじおか家には3匹の犬がいて、長老のコロッチは認知症になってふじおかさんを気落ちさせていた。そのコロッチにビブは迎えられた日からぴったりと寄り添うようになった。認知症の犬は、昼夜逆転の生活を送ったり、心細さゆえに大声で鳴きわめいたりすることが多い。しかし、コロッチは全く手がかからなかったという。

「夜に起き出すと相手をし、就寝中は抱き枕のように添い寝するビブがいて心安らかだったのでしょう」とふじおかさんは感謝を込めて振り返る。2014年5月、コロッチは静かに息を引き取った。それから4ヶ月後、1匹のフレンチ・ブルドッグがやってきた。

 

ボロボロの相棒に片時も離れず寄り添う

猫びより編集部
チャァがふじおか家に来て間もない頃

その年の夏、兵庫県姫路市の動物管理センターに、あるブリーダーの男性が「殺処分にしてほしい」と1歳になったばかりの3匹のきょうだい犬を持ち込んだ。酷い皮膚病を患い、「売り物」にならないばかりか「医療費がかさむ」というわけだ。ふじおかさんは、そんな不幸な犬たちをボランティアが救い出し、飼い主を募集しているのを知った。

さっそく連絡を取ったが、すでに2匹は飼い主が決まっていた。残る1匹はあまりに症状が酷いので募集すらしていなかった。全身の毛穴が炎症を起こして膿みただれ、かさぶただらけでにおいもしていた。ふじおかさんはその犬を引き取り、チャァ(♀)と名づけた。

チャァが患っていたのは、アカルスという皮膚疾患で、強いストレスや栄養不足が原因で発症するとされている。極度に男性を怖がり、虚ろな目をしていた。ブリーダーのもとでどんな地獄を見てきたのだろう、とふじおかさんは胸を痛めた。

そんなチャァがふじおか家の敷居をまたいだほぼその瞬間、ビブがやってきて片時も離れずに寄り添うようになった。

しかし並んでゴハンを食べていると、それまでの生活環境のせいか、チャァは横取りを警戒して「あっちへ行け!」と言わんばかりにビブを威嚇して追い払おうとする。筋肉質で衝動的に行動する傾向のある犬種なので、スキンシップもパワフルで猫には少々荒っぽいこともある。理不尽なこともされた。

しかし、ビブは何をされても怒らずめげず、まるでチャァのすべてを受け入れるように側にいつづけた。

ビブのおかげで孤独もストレスも感じずに済んだのだろう。穏やかで気ままな暮らしの中でみるみるチャァは快復していき、1年経つ頃にはすっかり体もきれいになっていた。

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種族を超えて、強い絆で結ばれた2匹が作った土台

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