大の温泉好きとして知られ、『最強の温泉術』などの著書もある医学博士の一石英一郎氏。新型コロナウイルスが猛威を振るい旅行なども憚られる情勢下、一石氏は温泉とどう向き合っているのか?
新型コロナウイルスと温泉旅行の関係は?
私は厚生労働省の温泉入浴指導員という資格をもっており、温泉がどれだけ健康によいかをテーマに本まで書いてきた、大の温泉好き医師です。
そんな私のところには、「コロナのなかでも温泉に入っていいですか?」という質問がよく寄せられます。まず申し上げておくと、温泉に入るといった行為自体や、高温・多湿の環境が、新型コロナウイルスの感染拡大に直接つながることはないでしょう。
しかし、温泉地への旅行は、残念ながら感染拡大のリスクが高いといわざるを得ません。
国内でも、ゴールデンウィークや夏休み、そして年末年始といった長期休暇の後に感染者数が増加している傾向があります。海外でも同様で、英スコットランド自治政府は昨年12月、「夏以降の感染再拡大は旅行が原因だった」と首相自ら会見で発表し、国民に注意を呼び掛けました。
旅行をすると気分が高揚します。普段は感染防止に気を遣っている人でも旅先では気が緩んでしまい、酒を飲んで大声で話したりという行動をしてしまいがちです。
温泉地の多くは都会から離れた場所にありますので、そこへ行き帰りする旅行には感染拡大のリスクがあるといえるでしょう。
さらに旅館でも、脱衣所のスペースが狭く「密」になってしまったり、食事場所が大広間だったりすると、同じ空間に一人でも感染者がいた場合、一気に感染が広まる恐れがあります。特に現在のオミクロン株は感染力が強いので、なおのこと注意が必要です。
いま大ブームのサウナも、換気が制限されたサウナ室で何人もが長時間一緒にいれば、感染拡大の可能性は高くなってしまいます。サウナの本場フィンランドですら、昨年の新型コロナ感染拡大期には公衆サウナを閉鎖するなどの処置をしていました。
このように考えていくと、オミクロン株によって感染が再拡大しているいまの時期は、温泉旅行やサウナに行くのは少し我慢したほうが無難でしょう。
コロナ禍で温泉を楽しむにはどうすればいい?
温泉に行けなくても、家の浴槽にお湯をはって入浴するだけで、健康増進には非常に有効です。
毎日、40~42度という比較的高温のお風呂に入る私たち日本人は、衛生的であるのはもちろんのこと、高血圧の改善や免疫力の向上など健康面でのメリットも受けています。
毎日、熱い風呂に入る習慣がある人とそうでない人とを比較すると、熱い風呂に入らない人のほうが5年後に要介護になる確率が約2倍に跳ね上がるという統計もあります。温浴の習慣と健康寿命には大きな関連があるのです。
とはいえ、ただのお湯につかるのと、さまざまな成分が含まれた温泉に入るのとでは、健康への好影響や心身の満足度は段違いですよね。
「感染拡大のリスクはわかるけど、温泉にも入りたい!」
こんな思いを抱えて、コロナ禍で温泉に行きたくても行けない人たちにとって朗報があります。それは最近、いくつかの企業が「温泉宅配」というサービスを始めたことです。
文字通り、全国各地の温泉を自宅に届けてくれる温泉宅配は、テレビのニュース番組でも取り上げられて話題になりました。
温泉から汲み上げたばかりの湯をタンクローリーに積んで自宅まで運び、太いホースを使ってタンクから浴槽に温泉の湯を入れてくれるのです。
また、20リットルほどの大きさのポリタンクをダンボールで梱包して自宅に届けてくれる方法もあり、ホースが届かないマンション高層階にお住まいでも温泉の湯を宅配してもらえます。
遠くまで旅行をするのはリスクがありますが、「コロナ禍が明けるまで待ちきれない」「すぐにでも温泉に入りたい」という人は、こうした温泉宅配のサービスを活用してみてはいかがでしょうか。