(写真:HARUKI)
変化の激しいこの時代。大切なのは「頭の良さ」より「ハートの強さ」。日本のIT業界を牽引してきたサイバーエージェント代表取締役・藤田晋氏はこう語る。
同じく長きにわたりIT業界を発展させてきた、"ホリエモン"こと堀江貴文氏。藤田氏と堀江氏はともに事業をしたこともある"盟友同士"。そんな二人が書籍『心を鍛える』を通して、初めて「生い立ち」「起業」「キャリア」「未来のこと」を語り合った。
00年代初頭、サイバーエージェントの経営が危ぶまれていた藤田氏は、楽天の三木谷浩史社長に何度も救ってもらったと話す。
※本稿は藤田晋,堀江貴文共著『心を鍛える』(KADOKAWA)より抜粋・編集したものです。
サイバーエージェント買収の危機
2001年5月。日経新聞に次のような記事が掲載されました。「村上世彰氏が第4位株主、サイバーエージェントに減資求める公算」
「モノ言う株主」として当時から話題を集めていたM&Aコンサルティング社長・村上さんが、弊社の株を市場で10%まで買ってくれていたのです。しかし、それは危ない状況でもありました。当時の株主構成を見ると「藤田晋22.6%、GMO21.4%、有線ブロードネットワークス13.2%、M&Aコンサルティング約10%...」となっています。
つまり、どこかの株主がその気になれば、サイバーエージェントをいつでも子会社にできるというわけです。以前は私も多くの株を保有していたのですが、この数ヶ月前に社員に配ったことで私の保有比率は極端に下がっていました。
そんな私のピンチを救ってくれたのが、楽天の三木谷浩史社長です。弊社の株をなんと10%、約10億円分も買い取ってくれたのです。
ある人から三木谷社長を紹介してもらった私は楽天を訪れ、サイバーエージェントの現況を説明しました。各方面から買収話があること。そして、楽天とサイバーエージェントには事業内容に相乗効果があることもアピールしました。
「私はこれからEC(電子商取引)とネット広告は、非常に成長すると思っています。つまり、楽天とは良いシナジー効果が生まれると思うのです」
「そうか。サイバーエージェントの話はすでに聞いてるよ。俺は出資するつもりだ」
とはいえ、楽天もネットバブル崩壊の影響で、御多分に漏れず株価低迷にあえいでいたはずです。それでも三木谷社長は投資を決断してくれました。
「ベンチャーが叩かれているんだから、助けないとね」
その当時、10億円ものお金を投資できる会社は、ほぼ皆無でした。2001年秋の話です。そして私は現在に至るまで、筆頭株主の座をキープし続けることができています。
「自分の信念を貫く大切さ」に気づく
出資から数ヶ月後、私はまた助けられます。三木谷社長から招待され、調布にある味の素スタジアムでサッカーを観戦していたときのことです。
「次の四半期決算は厳しそうです。なんとか黒字は確保しなければと思っているのですが...」
そう申し出た私に、三木谷社長はこう返してくれました。
「藤田君は、もっと中長期の経営を目指してるんだろう? それなら、自分の信念を貫けよ」
三木谷社長の言葉には、ハッとさせられました。上場してから今まで、私はずっと周囲に振り回され続けてきたのかもしれません。
思い起こせば2000年の年末に、私と経営陣は中期計画を策定し、発表しました。「2004年9月期に売上高300億円、利益30億円を目指します」
そんな約束をしたのですから、それまで赤字であっても計画通り。堂々と構えて、やるべきことをやっていればいいのに、「少しでも利益を出して、文句を言う人を見返したい」と奔走していたのです。
そもそも「大きく投資して、赤字でも許容してベンチャーを育てよう」というのが、当初のマザーズやネット企業に対する姿勢だったはず。ですから、自分の覚悟を信じて、その通りに突き進んで良かったのです。
しかし、私は経営者として未熟でした。「赤字企業」という悪評や、短期で結果を出すよう求める投資家、社内からのプレッシャーに耐えられず、闇雲に焦っていたのです。当時の私は28歳。経営者としては、まだまだ"ひよっこ"でした。
三木谷社長に喝を入れてもらった私は、「何があっても経営者としての信念を曲げない」と決意を新たにします。そして創業5周年を迎えた2003年3月。サイバーエージェントは、ようやく利益を出しにかかります。忘れもしない、29歳のときでした。