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「ものづくり信仰」が競争力低下の元凶? いま日本の教育現場が理解すべきこと

出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)

2022年04月15日 公開 2022年12月08日 更新

 

現代はアイデアや個性が生きる時代

10代のみなさんに今心がけておいてもらいたいことは、「人・本・旅」に尽きます。いろんな人に会う、本をたくさん読む、いろんなところへ行ってみる、「人・本・旅」を通じて経験を積むこと以外にないです。

「旅」と言っても、外国旅行をしろと言っているのではなく、近所でいいのです。お父さんやお母さんが好きなものや興味のあるものが何なのか、見に行ってみるのもいいでしょう。親が行くところに連れていってもらうのだって何かの出会いにつながるかもしれません。

ただ、何かに出会ったり、ものを考えるときにはつねに「なぜ?」と自分で考えるクセをつけるといいと思います。どんな小さなことでもいいですから。「なぜ、出会ってワクワクするんだろう?」とか「なぜ、こんな結果になるんだろう?」などなど。

子どもが何に興味を持ち、何に魅かれるかは誰にも分かりません。「放し飼い」をしつつも親は、できるだけいろんな可能性が引きだせるようにいろいろな人に会わせたり、図書館に連れていったりするのがいい。

この前若くして母親になったママたちの会に呼ばれたんですよ。みんな10代で妊娠してママになった、真っ赤な口紅や金髪のお母さん。彼女たちが「わたしたちは本なんか読んだことはないけど、かわいい子どもには本を読ませたい。何か良い方法はありませんか? 教えてください」と言うのです。

それは簡単です。子どもがたとえば3歳なら、近くの図書館に行って3歳児が喜びそうな本を司書さんに選んでもらって10冊くらい借りる。そしてお母さん方も、どんな本でもかまわないので適当に厚い本を借りてくる。それで家に帰ったら、借りてきた分厚い本を開いてゲラゲラ笑う。

そうしたらそれを見た子どもは、勝手に本を読むようになるのです。3歳の子じゃなくても、12、3歳の思春期の子どもにも効くと思います。適当に「おもしろいな」とか「へぇー」とか言うんです。とにかくお父さんやお母さんが楽しそうにしていると子どもたちはまねをするんですよ。

ぼくが大学時代に経済学で学んだのは、産業でたいせつなのは土地と資本と労働力。広い土地があって工場を作り、お金を調達して機械を入れる。そこに何百人も人を雇って、製品を作る。昔の産業、製造業の工場モデルはそうでした。土地と資本と労働力が3要素です。

けれども現代の世界的企業である「グーグル」は、ふたりの大学生の頭脳から生まれました。インターネットの時代には、土地も資本も労働力も必須ではなくなった。新しい産業のすべては、人間の突出したアイデアから出てくるのです。

だからこそ、人と違う個性が大事になってくる。人は他人と違うことがあたりまえなので、本当に好きなことをやっていれば自然とその人の個性が出てきます。

現在は、製造業の工場モデルの時代ではなくて、アイデアや個性が生きる時代に変わっています。けれども、親や先生はまだその事実を完全には腹落ちして理解していない。それが本当に理解できて初めて、子どもたちを正しく指導できるようになるでしょう。

日本の国際競争力がこの30年間で大きく低下した原因は、経済政策やグローバル化の進展、少子高齢化なども影響したでしょうが、根本は新しい産業を生みだせなかったことにあります。

日本が1990年代まで得意とした製造業は、GDPに占める割合が2割を切ろうとしています。日本の製造業はきわめて生産性が高いのでそれを守っていくことはたいせつですが、一方で新しい産業の創造が急務です。日本の産業では長い間、工場モデルの「もの作り」を信仰してきたので、偏差値が高くて、素直で、我慢強くて、協調性があって上司の言うことをよくきく人間がすばらしいという文化を育ててきました。

素直で我慢強く協調性があるタイプばかりを育てようとするから、そこから外れる子どもの居場所は確保しにくくなる。それで、不登校の子どもが出てくるのではないでしょうか。

不登校の子どもはきっと同質性が嫌いで、型にはめられたくないタイプが多い。日本の従来の文化に合わないだけで、むしろ起業家はそういう子どもたちの中から生まれてくるのではないでしょうか。

 

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