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「ものづくり信仰」が競争力低下の元凶? いま日本の教育現場が理解すべきこと

出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)

2022年04月15日 公開 2022年12月08日 更新

「ものづくり信仰」が競争力低下の元凶? いま日本の教育現場が理解すべきこと

教育の方向が大きく変わりつつある。中高生の子どもを持つ親の多くは、ひしひしと感じているのでは無いだろうか。

わかりやすい変化は、大学入試における総合型選抜(2020年までのAO入試)と学校推薦型選抜への移行の拡大だ。2022年からは、私立大学のみならず、国立大学も定員の半分までは、総合型選抜と学校推薦型選抜で定員を埋めることが可能になった。

このような変化の中で、子どもたちは早くは中学入試から就職試験まで「自分のやりたいこと」、「自分はどう考えるか」を追究することがもとめられるようになっている。

理想的ではあるが、入試が順位をつける競争であるのは変わっていない現実を踏まえると、「とくにやりたいことがない」という子にとっては、かなり戸惑うことが多くなるかもしれない。また、むしろ大人世代のほうが、どうしてこんな風に変化しないといけないのか、いまひとつ腑に落ちていないことが多いかもしれない。

本稿では、2020年8月に刊行された『大人は知らない 今ない仕事図鑑100』(講談社)から、APU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明氏へのインタビューを掲載する。

出口氏は、ライフネット生命保険会社の創業者でもある。博覧強記で歴史に関する著述も多数ある出口氏に、この変化の歴史的な背景、時代が変わっても変わらない親の役割を語っていただいた。

【出口治明さん<APU(立命館アジア太平洋大学)学長>】
1948年生まれ。大学卒業後、日本生命保険相互会社入社。2006年退職。同年、ネットライフ企画株式会社(現・ライフネット生命保険株式会社)を設立。2012年上場。社長、会長を10年務めて2017年に退任。2018年より現職。旅と読書をこよなく愛し、訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は一万冊超。数々のベストセラーを執筆。

 

今好きなことがなくても、いつか見つかる

子どものころ好きだったことは、虫を捕ったり柿を採ったり川で魚を獲ったりすること。田舎だったので夜はひたすら星空をながめ、いつか火星に行きたいなと思っていました。親はぼくを「放し飼い」、好きなようにやらせてくれました。子どもはできるだけ放っておかれたほうが楽しいんです。

もし今好きなことがなくても、いつか見つかるので大丈夫。もしやることがないなら、英語の勉強をしてください。英語を勉強して損になることは100パーセントありません。だって世界中の人と話せるようになるわけですから。

ゲームでもいいですよ。親が怒る? 好きなことをやめろやめろと言うほどひどい親はいない。子どもが夢中になってやっていることを「止めちゃだめ」だと思います。

あるお母さんが、お子さんが部屋にとじこもって軍艦の模型ばかり作っているので、いつも「勉強しなさい」と言って怒ってばかりいると話していました。ぼくは、精巧なモデルなら何百万円という値がつき、プロになれば普通の会社に勤めるよりもうかるので、お子さんをむしろ励ますようにアドバイスしました。

たぶん、はしかのようなもので、いつか気が済んだら違うことを見つけるかもしれません。ただ、今好きで熱中しているなら、否定をしちゃいけない。子どもたちにとっていちばん大事なのは、自己肯定感を持つことです。好きなことをやっていて、それでお父さんやお母さんが「いいんだよ」と言ってくれれば、どんどん自信がつき、能力は伸びていきます。

親も、もっと好きなように生きていいと思うのです。親が自分に自信がなくて好きなように生きられず、「あれもだめ、これもだめ、普通になりなさい」って子どもたちに話すから、子どもがだめになる。

「人間は顔が違うように、みんな違ってあたりまえ、だれが何と言おうと違っていていいんだ」と覚悟を決めてください。違うことが個性です。子どもは、親のありのままの生き方を見て育ちます。みっともないところも含めて、普通の姿を、ありのままの姿を見せればいい。

人間はそれほど立派な生き物じゃないんです。親になったら「ちゃんとしたお父さんやお母さんにならなきゃ」と思う人もいますが、なれなかったらしょうがない。親は子どもに名前をつけて、そして「放し飼い」にすること以外できることはないんじゃないですか。親と子どもは別個の人間であることを分かっておかなくてはいけません。

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