大橋未歩「逆境を楽しむも、苦しむも、自分次第!」
2012年03月14日 公開 2022年12月27日 更新
叱ってくれる人への感謝を知る
たくさん叱られてきた若手時代。その言葉の重さが、年月を経て初めてわかることもあります。
入社10年を超え、私はアナウンス部の主任になり、後輩を注意する役回りが求められるようになりました。
ですが、つい穏便にすます方法を模索してしまう自分がいます。
普段可愛がっている後輩の落ち込む顔はできればみたくない。タイミングはいまでいいのか、言い回しはオブラートに包むべきか、そもそも私に偉そうに言う権利があるのだろうか……。あれこれと考えをめぐらし、二の足を踏んでしまいます。
「叱るのは、叱られるのと同じくらい精神的に消耗するんだな……」
その時、初めてわかったのです。私の尖った角を1つ1つとる作業に、スタッフは膨大なエネルギーを費やしてくれていたのだと。 だからこそ、本人のためになると思えば重い腰を上げるし、言っても無理だと思えば余計なエネルギーは使わなくなります。
「言われなくなったらおしまい」という言葉の意味もしみじみとわかるようになりました。
私も後輩にあえて厳しい言葉を投げかけたこともあります。仕事に向かう姿勢に対して、
「あなたは甘えてるよ」
と、はっきり告げたこともありました。この言葉を口にするのは、自分自身とても勇気がいりました。ただ、叱る時には、いいところと直すべきところをワンセットで伝えるようにしています。
いいところもあえて伝えるのは、ご機嫌をとるためではありません。人は多面体。長所と短所が共存するのが人間の自然な姿だと思うからです。
それなのに、先入観で長所がみえなくなってしまい、頭ごなしに叱ることだけは避けようと肝に銘じています。
ちなみに、「お前と仕事をしたくないスタッフもたくさんいることを覚えておけ」と私を叱ってくれたプロデューサーの方とは、いまではいい関係でお付き合いをしています。その方の息子さんの結婚式の司会もさせていただきました。
当時の話は、あえてしたことはありません。いまではスタッフとアナウンサーという関係を超えて、父親のような存在で接してくれています。自分を更生させてくれた父親の言葉について本人と振り返るのも、気恥ずかしいものがあります。
あの時、どんな気持ちで伝えてくれたのかは聞いてみたい気もしますが、私にとってあの経験は、大事な箱にしまわれた小さな宝石のようなもので、いまさら本人の前で箱を開けるのは野暮な気がするのです。
大橋未歩(おおはし・みほ)
テレビ東京アナウンサー
1978年、兵庫県神戸市生まれ。16歳の時、阪神淡路大震災で被災。一浪の後、上智大学法学部入学。2002年、(株)テレビ東京入社。スポーツ、バラエティ番組を中心に活躍。これまで担当した主な番組は、バラエティでは『やりすぎコージー』『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』『極嬢ヂカラ』『アリケン』など。スポーツ番組では『スポーツ魂』をはじめとするスポーツニュースのほか、「石川遼スペシャルRESPECT』など。また、アテネ五輪、北京五輪、バンクーバー五輪と3度の五輸キャスターを務めたほか、世界単球選手権、柔道グランドスラム東京など国際大会中継キャスターの経験を多く持つ。世界を舞台に活躍する選手との仕事経験を生かし、今春から早稲田大学大学院に入学。スポーツビジネスの研究にまい進する予定。2012年の目標は、会社員と学生と妻を両立すること。座右の銘は「おもしろきこともなき世をおもしろく」。