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日本唯一の激レア県境! 自治体まるごと飛び地「北山村」の秘密

田仕雅淑(たし・まさよし,イラストレーター)

2022年07月19日 公開 2024年12月16日 更新

 

国内唯一! 自治体まるごと飛び地

和歌山県周辺の地図を見ていると、三重県と奈良県に接する辺りに違和感を持たないだろうか。県境を示すラインが、二重に見えるのだ。

拡大してみると、三重県と奈良県に挟まれて和歌山県が飛び地として存在しているのが分かる。しかも二つ。一つは和歌山県新宮市の飛び地で、もう一つは東牟婁(ひがしむろ)郡北山村だ。

北山村は全国でここだけの、自治体が丸ごと飛び地になっている場所で、飛び地としての大きさも国内最大の面積を誇る。なぜここだけ和歌山県なのか、これだけ離れると不便はないのかと、余計な心配をしてしまうが、こうなった経緯は明治4年の廃藩置県にさかのぼる。

廃藩置県によって、北山村が属する旧新宮藩領には新宮県が誕生したが、その時、東隣の渡会(わたらい)県と北の奈良県との三県の間で境界が引き直され、県境は北山川から北が奈良県、熊野川から東が渡会県ということになってしまった。

北山村は北山川の北にあるので、奈良県に組み込まれる。しかし、当時の奈良は山で、渡会側とは川で隔たれていて交流がほとんどなく、村の経済は新宮へのいかだ師による熊野杉の運搬で成り立っていた。

そこで村は、奈良県ではなく、新宮県への編入を希望し、それがかなった。その後、多すぎる県の統廃合がなされ、新宮県は田辺県、和歌山県と合併して和歌山県となった。この時、北山村も晴れて和歌山県の一員として、全国唯一の飛び地の村として、地図にその存在を燦然と輝かせるに至った。

北山村は、奈良県と三重県に挟まれた、和歌山県の飛び地。付近には三県境が5ヶ所もある。
北山村は、奈良県と三重県に挟まれた、和歌山県の飛び地。付近には三県境が5ヶ所もある。

現在の北山村は、いかだ下りなどのレジャーと、特産のじゃばらという果物で人気の観光地となっている。温泉付きの宿泊施設もあり、その近くにある北山村の観光センターでは「飛び地の村訪問証明書」の発行もしてもらえる。県境の訪問記念に、これはぜひゲットしておきたい。

隣の新宮市の飛び地と奈良県十津川村には、国特別名勝の「瀞峡」がある。巨岩の断崖は見る者を圧倒させ、エメラルドグリーンの川面は心が洗われるような感動をもたらす。

美しさもさることながら、特筆すべきはこの渓谷に、奈良県‒和歌山県‒三重県の三県境の一つがあることだ。さらに三県境を見下ろす崖上へと目を移せば、木造瓦屋根の古風で重厚な建物が見えてくる。県の有形文化財に指定された「瀞ホテル本館」である。

現在は改装がなされ、喫茶として営業している。こちらの店で、三県境を見下ろしながらコーヒーで人心地……県境マニアとしては最高の時間を過ごせそうだ。

最近はこちらの飛び地も合わせ、付近に五つある三県境に看板を設置するなど、観光資源として活用する動きもある。マニアとしてはこの周辺の県境を巡らずにはいられない。

 

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