うつ病や認知症にも? 「オーディオブック」が脳機能にもたらす効果
2022年08月29日 公開 2024年12月16日 更新
2024年には260億円もの市場規模になると予測されるオーディオブックに、さらなる可能性が期待されています。
オーディオブックサービス「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンクが関西福祉科学大学などと共同で実施した調査によると、「オーディオブック×運動」によって標準的な認知症予防トレーニングと同等の効果が発見されました。
本稿では同社の代表取締役会長・上田渉氏の著書『超効率耳勉強法』より、オーディオブックが持つ認知症予防の可能性を解説した一節を紹介します。
※本稿は、上田渉著『超効率耳勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
リスニングは脳機能を強化することが実証されている
リーディングよりもリスニングのほうが脳に与える負担が小さい。それだけにとどまらず、脳機能を強化することも実証されています。
株式会社脳の学校の代表を務める、脳科学者の加藤俊徳氏監修のもとに行われた実験で、次のような事実が明らかになりました。
大学生8人に1カ月間、毎日2時間以上ラジオを聴いてもらい、その前後におけるMRI画像の比較分析をしたところ、8人全員が「イメージを記憶する力」が強化され、8人中4人が「聴く力」が強化された、という結果が出たそうです。
実験はラジオを使って行われましたが、これはもちろん、オーディオブックなどにも同じ効果が認められるということ。リスニングという行為は、脳の成長に有益な働きをもたらしてくれるのです。
「聴きながら読む」ことで読解効果は倍増する
耳勉強法の有用性を示すエビデンスはまだまだあります。
アメリカのThe Association for Information Science and Technology(情報科学技術協会)という組織が2019年に発表した、視覚(文字)と聴覚(音声)の読解効果に関する比較実験についての論文によると、
(1)音声を聴くことによる読解効果は、文字を読むことよりも優れている、(2)両者を同時に行うことによる読解効果は、それぞれ単体で行うよりも優れている、という2つの事実が明らかになったそうです。
そしてこの論文では、オーディオブックを聴きながら、VR読書やAR読書といった新たな読書形態を取り入れることが、読解効果の点からも推奨されると結論づけています。
ほかにも、テキサスA&M大学の研究チームが2020年に発表した、スムーズに読書をすることが困難な小学生を対象に行った実験にまつわる論文も興味深いです。
このチームによると、2000年から2019年の20年間にわたって、読書困難と認定された小学生に対して音読を取り入れてもらったところ、読解力の向上が見られた事例がいくつも確認できたといいます。
要するに、オーディオブックを聴きながら同じ本を読むと、単なる読書だけのときよりも読解力が上がるということです。
これはいわば、補助輪付きの読書です。文字を目で見て音声に変換するという作業(音韻表象)を脳が行わずに済むからこそ起こる現象で、補助輪が必要なくなるまで読解力は上がり続けると考えることができます。
目だけではなく、耳からも情報を吸収すると、国語力や思考力といった、人間が生きていくうえで必要となる基礎能力がどんどん強化されていくのです。
第2言語の習得にも「聴きながら読む」が最適
また、英語などの第2言語の学習において、リーディングフルエンシーといわれる「流ちょうに読む力」を養うために、本を読みながら耳でリスニングすることが有効であるという事実を示すエビデンスも枚挙にいとまがありません。
順天堂大学の磯崎アンナ氏が2018年に発表した論文や、台湾の醒吾科技大学のアンナ・チンシャン・チャン氏が2009年に発表した論文などが、その事実に言及しています。
リーディング能力を高めるためには、文章をひたすら読むことよりも、同じ文章の音声を同時に聴きながら読むほうがはるかに有効というのはなんとも面白い話です。そしてこれは外国語だけでなく、母国語にも通用することです。