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「盗んだのはあの人!」認知症に多い“物盗られ妄想”に施設職員はどう対応する?

柴谷匡哉(元大阪府議会議員、社会福祉士)

2022年09月16日 公開 2024年12月16日 更新

「盗んだのはあの人!」認知症に多い“物盗られ妄想”に施設職員はどう対応する?

「65歳以上の6人に1人は認知症」です。たった3年後の2025年にはさらに割合が増え、「65歳以上の5人に1人は認知症」になると言われています。

そんな時代に、介護は多くの人にとって避けては通れない道。老人ホームを舞台に、入居者も職員も含めて繰り広げられる人間模様は、人生の縮図そのものなのです。

5000人の認知症の方と接し、1万人以上に予防講演をしてきた柴谷匡哉氏が、介護現場でのエピソードを通し、認知症になるとどうなるのか、どうすればいいのか、を教えてくれました。

※本稿は、柴谷匡哉著『施設長たいへんです、すぐ来てください!』(飛鳥新社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「タンスに入れていたお金がなくなった!」

アルツハイマー型認知症の典型的な症状に、「物盗られ妄想」「被害妄想」があります。

「私のタンスに入れていた、5万円がなくなった!」
入居者の竹内さんから、寮母に訴えがありました。

私どものケアハウスでは、「お金なくなった」「大事なものが盗まれた」と入居者から訴えがあると、まず認知症の初期の症状を疑います。

認知症で起きやすい被害妄想の1つだからです。大事な物を盗られたと訴える症状で、財布や現金、預金通帳、宝石類等々が盗まれたと思い込むことが大半です。

今回この訴えをされたのが、竹内順子(86歳)さんです。市営住宅で長年独り暮らしをされていましたが、老後のことを考えケアハウスに入居されて5年が経っていました。日頃から物静かな方で問題行動も全くありませんでしたが、最近になり認知症の初期症状が出てきました。

寮母が、竹内さんと一緒にお部屋に行ってタンス内を探したところ、すぐにお金が見つかりましたが、そのときに「お金あったよ! ここにあるでしょ!」などと親切にお金を持って見せるとたいへんです。「あんたが盗ってたんか!」と犯人になってしまう恐れがあるからです。

そうです、親切にした人が、今日から犯人になってしまうのです。

 

探し物を先に見つけてはいけない

そこで、寮母はお金を見つけると、一緒に探すフリをしながら、竹内さん自身がお金を見つけやすいように誘導することにしました。

そうして、自らがお金を見つけると、「あーよかった。こんなところに入れてたわー」と納得されます。寮母も、「見つかってよかったねー」と一緒に喜びました。

それからも竹内さんが寮母にお金や財布がなくなったと訴えに来られては、その都度寮母がお部屋を一緒に探すフリをしながらご本人に見つけてもらうことを繰り返していました。

そんなある日、今度は「私の嫁入り道具で、大事にしている着物がなくなった!」と訴えがありました。着物がなくなったとは、我々も未だかって聞いたことがありません。

寮母が竹内さんのお部屋に行ってタンスの中はもちろん部屋中を探しましたが、それらしい着物は見つからず、竹内さんはそのうち誰かに盗られたと思い込むようになってしまいました。「私の嫁入りに持ってきた着物が盗られてん!」「絶対犯人は、施設内にいるわ」と入居者に訴えます。

寮母会議でも、さすがに着物を盗る人もいないだろうし、完全に認知症の被害妄想が出ているとみて、入居者とトラブルにならなければと注意を払うことになりました。

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犯人が着ていたのは...

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