博多大吉「生理のしんどさを男性も知った方がいい」
2022年10月19日 公開
写真:宮田浩史
多くの女性は10代前半から50代までの長い期間を、生理とともに過ごします。自身の身体に起きることとして、またはそれによって生活や仕事、学業に影響が及ぶものとして、妊娠につながるものとして、意識したことがない人はいないといってもいいでしょう。
では、男性にとっては? 自分の身体に起こることではない。それはたしかですが、決して縁遠いものではありません。ともに暮らす家族が、一緒に働く上司や同僚、部下が、親しく過ごす友人が毎月経験しているものなのですから。
女性に生理が「ある」こと自体を知らないという人はあまりいないでしょう。けれど日常的に意識することなく過ごしてきた人が多いのではないでしょうか。それは「なぜ」なのか。また知ろうと思ったときに「なに」からはじめればいいのでしょうか。
※本稿は、博多大吉・高尾美穂著『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
まずは「ざっくりと知る」ところから
【大吉】ぼくは長いあいだ、生理のことは「まったく知らなかった」と断言していいでしょうね。といっても、女性に生理という現象があることは当然、10代のときから知識として持っていました。
でも、それ以上の理解がむずかしいんです。生理のとき身体のなかで具体的にどんなことが起きているのか、女性はそれをどう感じているのか...考えたこともなかったです。
ぼくが育った家庭では母と姉がいて、本当なら生理がものすごく身近だったはずなんです。ナプキンが目に入ったこともあります。
でも何かのときに母から「知らなくていい」と言われたんですよね。姉も、弟に生理のことを知ってほしいとは別に思ってなかったんじゃないかなぁ。子どもながら「ふれてはいけない」空気を察知していました。
【高尾】男性にとって生理がどれだけ身近かを考えるとき、家族構成が大きく影響してくると思います。息子しかいない家庭では、ナプキンなどの生理用品をほかの家族の目にふれないよう気をつけているお母さんが少なくないし、自分だけでなく娘にもそう教えることがあるようです。
では女性が多い家庭では生理がオープンかというとそんなことはなく、女性同士は話すけど、そこは男性が入れない領域になっているのだとか。そうなるともし関心を持ったとしても、男性からその話題を持ち出すのはむずかしいでしょう。
だから男性にとって生理は、「あることはわかっているけど、どういうものかはまるで見えない」ものになる。大吉さんのように「こっちからふれてはいけないもの」という感覚になっても不思議じゃないですよね。
私は小学校から大学まで講義に行くのですが、ある有名大学の運動部から、女性の身体や生理現象について講義してほしいと依頼が来たことがあります。
なぜそんな内容の講義を聞かせたいと思ったのかを指導者に尋ねてみたところ、その大学は男女比が大きいうえに、中高一貫の男子校の出身者が多い。そのうえ体育会系の運動部に入れば、4年間で女性と接する機会はとても少ないのだそうです。
でも、彼らが社会に出てリーダー的立場になったとき、もちろん女性とも一緒に働くことになりますよね。だから学生のうちに最低限のことは知っておいてほしい、という意図だったようです。
【大吉】ぼくの話をすると、生理中の痛みやPMS(月経前症候群)のしんどさ、それから生理のときに女性はどんな気持ちになっているのか、何を困っているのかを教えてもらったことで、「自分もちゃんと知ったほうがいい」という気持ちになったんです。
生理前の不調も合わせると月に10日ぐらいしか元気なときがない女性も少なくないそうですね。これには本当に響きました。男性も向き合わないといけない話だぞ、って。
【高尾】生理がどんなメカニズムで起きるかっていうのも大事は大事なんだけど、そこがスタートじゃないほうがいい場合もあるってことですよね。
【大吉】よくある、子宮と卵巣がこうあって、ここから排卵されて...っていうのからはじまると、学校の授業みたいに感じてしまうのかなぁ。生物の授業で「植物の細胞壁はこんなふうになってます」ってありましたけど、それと同じで"教科書に書いてあること"でしかなくなるんです。
それよりも、これだけ困っている人がいるんだと知ったり、それがなんでそうなるのかを高尾先生のような専門家から聞いたりするほうが、ぼくは入っていきやすかったです。
生理の仕組みを知っていても、女性がそれでどう感じているかを知らなければ、こちらからたいしたことはできないと思うんですよね。
【高尾】重箱の隅をつつくような「身体の仕組みとは」というレクチャーじゃなくて、まずは「ざっくり知る」がいいと思うんですよ。
男性が生理について考えるとき、自分の身に起きることじゃないので想像力を働かせないといけないところがある。ざっくり知ることで、想像するための材料を蓄えていくイメージですね。
落とし穴を埋めることで「公平」な社会に
【高尾】男性も生理について知ろう、という話しになると、SNSなどで「最近は女性ばかりが健康支援をしてもらっているじゃないか」という声があがります。一部の人たちの目には、女性だけが優遇されているように見えるのだと感じています。
ここでひとつ知っておいてほしいのが、「平等」と「公平」は、言葉だけ聞くととても似ていますが、異なるものだということです。
たとえば、いま野球の試合が行われているけれど、私たちの目の前には高い壁があって見えない。そこでみんなに高さ20センチの足台が配られます。これが「平等」ですね。
長身の大吉さんなら、その足台に乗れば壁の高さをゆうに超えるので試合を見ることができます。でも私のように小柄だと、20センチの足台に乗ってなお、壁の高さに阻まれます。
【大吉】高尾先生には、50センチぐらいの足台があったほうがいいんじゃないですか。
【高尾】そうそう、大吉さんには20センチ、私には50センチの足台が配られたら、私たちふたりともが壁の向こうの景色を見ることができる。これが「公平」なんです。
同じ高さの足台じゃないとズルイと思われる人もいるかもしれませんが、ここでの目標は「壁の向こうの試合を見ること」なので、いま見えていない人も見える、という公平な状態を達成するにはどうすればいいか、ということです。
生理は、女性特有の健康課題です。これから詳しくお話ししますが、生理痛をはじめとする月経困難症、過多月経、PMS、PMDD(月経前不快気分障害)といった生理にまつわる不調は、女性にとって"落とし穴"のようなもの。男性と同じ道を歩いていても、女性の行く道にはあちこちに落とし穴があって、そこに落ちてしまう人がいます。
じゃあ公平にするにはどうすればいいのか? 答えは、「落とし穴を埋める」です。それによって女性が男性と同じように歩けるようになることは優遇ではありませんし、男性が何か損をすることもありません。
男性の行く道にも、どこにどんな落とし穴があるかわからない。体調やメンタルを崩すことは誰にでもあります。
そんなときに穴にはまって抜け出せなくなるような社会ではなく、穴があってもそこにはまらないよう配慮されている社会だと、みんな安心して生きていけますよね。男性が生理について知ることも、こうした公平な社会への一歩なのだと思います。
【博多大吉】お笑いコンビ「博多華丸・大吉」。吉本興業所属。1971年生まれ、福岡県出身。NHK「あさイチ」司会。コンビではTHE MANZAI2014優勝、単独では2015年IPPON グランプリ優勝。NHK 「あさイチ」や日本テレビ系列「人生が変わる1分間の深イイ話」の生理特集では、的を射た発言に世の女性たちから賞賛の声が寄せられた。
【高尾美穂】医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。著書に『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』( 講談社) など。NHK「あさイチ」などメディア出演多数。トレードマークのヘアスタイルは絵本の「タンタン」がモチーフ。