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上司が、仕事の代わりに教えること

2012年04月27日 公開

藤野祐美 (人材・組織開発コンサルタント)

PHPビジネス新書『上司は仕事を教えるな!』より》

 教えられない3人の上司

 ここでは、実際に私が接した上司の人たちを紹介しながら、先に述べた精神的支援の方法を別の観点から、掘り下げていきます。彼らの姿から上司としてのあり方を感じてもらい、部下にとって“忘れられない上司”になるにはどうすればよいのか、一緒に考えていきましょう。

 ある研究開発センター長。彼は入社以来30年間、人事一筋の生粋の人事マン。その彼が研究開発センターの所長に就任し、何人もの博士や修士を束ねることになりました。

 あるメーカーの支店長。社内でも注目の、新ジャンルの商品を専門に扱うこととなりましたが、実は営業経験がゼロだそうです。

 ある銀行の女性支店長。彼女は渉外経験ゼロ。常に内勤のバックアップオフィスでの仕事を担当してきた彼女は、現場に出たことがないそうです。

 この3人に明らかに共通すること。それは、どなたも「現場経験がない」「担当する専門領域の知識がない」ことです。まさに彼らは「仕事を教えることができない上司」なのです。

 ところが、彼らは3人ともに、仕事が教えられないにもかかわらず、部下の人生を変えた「忘れられない上司」という共通点がありました。彼らの部下に話を聞きましたが、口を揃えて「あの人のおかげで……」という話が返ってきました。

 仕事の代わりに彼らが教えてきたことを振り返ってみましょう。

 

 「これ、やってもらえるか?」「無理です。できません」、職場で見慣れた光景です。部下から「できません」といわれたとき、あなたはどうしていますか?

 「できない」理由は、いたるところに溢れています。時間がない、経験がない、知識がない。皮肉なものでキャリアを積み連ねるほど、この「できない」言い訳上手になっていくものです。

 部下が「できない」といったとき、3人はどう答えていたのでしょう?

 「じゃあ、どうしたらできるか考えてみよう。まず、なぜできないと思った?」

 これが、彼らの返答です。彼らは続けます。

 「どうすればできるか、なんでもいいから思いつくこと、聞かせてよ」
 “できない”で凝り固まった思考を、“できる”にギアチェンジしていきます。

 「納期が厳しい? じゃあ、納期を延ばしたら、対応できそう?」
 「手が足らない? ヘルプに誰か入ってもらったら、できそう?」
 「情報が足りない? 二課に協力を仰いだら、できるかな?」

 できない言い訳を正当化していくのではなく、どうすればできるか。できるようになるためのアイデア出しと検討を、1つひとつ進めていきます。

 どんな物事にも必ず2つの側面があります。半分空っぽになったグラスを前にして、「もう、半分しか残っていない。どうしよう」と思うのか、「まだ、半分もある。十分だ」と思うのか、本人の見方次第だということです。

 “できない、無理です”という否定的な視点を、上司のあなたの力で“どうすればできるか”という肯定的な視点に変えてください。

鳥の目・虫の目・魚の目を教える

 視点の変え方は、肯定的な見方か、否定的な見方かだけではありません。こんな言葉があります。

 「鳥の目・虫の目・魚の目で見ろ」

 大空を飛びまわる鳥は、全体を見下ろすことができます。俯瞰的なものの見方である鳥の目。虫の目は、複眼。ぐっと対象物に近づいて、さまざまな角度から見る目。そして水を泳ぐ魚のように、流れを見る目です。

 未経験の仕事、自信のない仕事を割り当てられた部下に、鳥の目を教えます。

 なぜ、その仕事があなたに回ってきたのか? この仕事をやりきるとその先はどうなるのか、部下に考えさせます。部下の視点を一段上げるのです。目の前しか見えなくなっている部下に、1つ上から物事を見る視点を教えます。

 「前にもダメだったから」と答える部下に、虫の目を教えます。

 なぜ、前はダメだったのか。次は、別の切り口から挑戦してみてはどうか? 物事を見る角度を変えるのです。

 「君が顧客の立場だったら、どう考える?」
 「もし、競合相手だったら、どうすると思う?」
 「今回の結果だけ見れば失敗かもしれないが、長期的に考えれば、これで次につながる関係は築けたんじゃないのか?」

 このように、別の角度からの発想を促します。

 「どうして、これじゃあダメなんですか!」。自分の主張しか見えなくなっている部下に魚の目を教えます。

 仕事をするということは、周りの環境と折り合いをつけていくということです。顧客動向から市場動向。環境がどう動くか、これを見ずして仕事はできない。ガラパゴス携帯という言葉が一時さかんに語られましたが、どれだけ素晴らしい技術の粋を集めた商品でも、環境に順応できなければ、それを使う人がいなければ、闇に消えていくのです。

 部下の周囲は、どんな流れであるのか。今の流れ、そしてこれから予測される流れを見る目を伝えます。

 実際に対象を見るのは部下であり、上司が代わって見ることはできません。しかし、忘れられない上司は、「見方」を教えることはできるのです。

 

藤野祐美

(ふじの・ゆみ)
 
株式会社Y'Sオーダー代表取締役

大阪府出身。オーストラリアBOND大学大学院経営学修士。ミノルタ株式会社(現コニカミノルタ)、プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク社勤務を経て、オランダ資本企業ニュートレコ社の日本法人立ち上げに参画。さらに関連会社2社を立ち上げ、取締役に就任。アジア太平洋地域人事統括として事業拡大に貢献。その後、株式会社Y'sオーダーを起業し、各種企業へ人材・組織開発コンサルティング業務を展開中。企業理念である「誰もが、かけがえのない価値を持っている」のもと、理論+実体験+カウンセリング手法を融合した独自のスタイルで、人材・組織開発に取り組む。国内外での企業研修・講演は、年間200回を超える。
著書に『上司取扱説明書』(同友館)『自分たちのMBA』(共著、青山ライフ出版)がある。


 ◇書籍紹介◇

上司は仕事を教えるな!

藤野祐美 著
本体価格 800円   
 
仕事を教えるより、もっと大事なことがある。
本書は、外資系企業で働き取締役となった著者が、自身の体験やさまざまな事例を紹介しながら、日本人が苦手な部下への精神的支援をどう行うか、具体的な支援方法を解説します。目からウロコの事例が満載!



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