横浜の街に残る「戦争の記憶」 遺跡の発掘調査で偶然見つかった防空陣地
2026年02月10日 公開
こうしたなか、横浜都市発展記念館が開催する特別展「戦争の記憶 横浜と軍隊の120年」は、体験者の証言だけに依存するのではなく、別のかたちで過去と向き合う道筋を示そうとする展示となっています。
横浜市ふるさと歴史財団・埋蔵文化財センターの古屋さんによれば、横浜市内には太平洋戦争期を中心に数多くの軍事施設が存在していました。しかし、その全体像はいまだ十分に解明されていないといいます。現存する構造物や文献資料、発掘調査によって初めて明らかになった遺構などを丹念に検討し、今回の展示ではおよそ30か所の軍事施設が紹介されています。
偶然に発掘された照空隊陣地

93式 150cm照空灯 終戦直後に米軍によって撮影された写真(米国立公文書所蔵写真 工藤洋三氏提供)
展示で象徴的に紹介されているのが、戸塚区舞岡で発掘された宮根照空隊陣地です。照空隊とは、夜間に飛来する敵爆撃機を強力なサーチライトで照らし、高射砲の照準を助ける部隊を指します。
この遺構は、もともと縄文時代の遺跡として登録されていた市営墓地の発掘調査中に、偶然発見されました。掘り進めるうちに、そこが戦時中の陸軍防空陣地であったことが判明したといいます。
発掘調査では、中隊本部と複数の分隊陣地が一体となった大規模な構造が確認されました。円形の遺構の中心には照空灯が据えられ、離れた場所から遠隔操作されていたこと、また聴音機によって敵機の方向や速度を把握していたことも、遺構の配置からも確認されています。
遺構そのものだけでなく、そこから出土した遺物も戦争の実像を伝えます。照空灯に使われた炭素棒、陣地内の通信に使われていたとみられる空気式電池、さらにはカミソリやペン先、殺虫剤の瓶など、兵士たちの日常を感じさせる品々が見つかりました。
一方で、照空灯本体などの兵器類はほとんど残っていません。敗戦後、米軍が接収し、記録のうえで撤去したためで、日本国内で現存が確認されているのは、小笠原の父島に1基、母島に1基のみとされています。

防空陣地が整備された背景

高射砲陣地の空撮(場所不明、米国立公文書館所蔵写真 佐藤洋一『米軍が見た東京 1945 秋』洋泉社 2015)
防空陣地が日本軍の中で急速に整備されていった背景には、終戦前年の1944年(昭和19年)6月に起きたマリアナ諸島の米軍占領がありました。マリアナ諸島とは、現在のグアム島、テニアン島、サイパン島などを指します。
これらの島々が米軍の手に渡ると、島内には大規模な飛行場が建設され、当時開発されたばかりの爆撃機B29が大量に配備されました。日本軍もこうした動きを把握していましたが、マリアナ諸島の占領が意味するところは極めて重大でした。
B29は約2200キロという長い行動半径を持ちます。行動半径とは、攻撃を行って安全に帰還できる距離のことです。この行動半径の範囲内に日本本土の大部分が収まってしまったことで、本土空襲は現実的な脅威として差し迫ったものとなりました。
そのため日本軍は本土防空の強化を急務と判断し、各地で高射砲陣地や照空隊陣地などの防空陣地を集中的に整備していきます。横浜を含む首都圏一帯が防空網の最前線として位置づけられていったのも、この流れの中でのことでした。
横浜に展開していた防空陣地の多くは、現在では地上から確認することができません。そこで重要な手がかりとなるのが、戦時中や戦後直後に撮影された航空写真です。
古屋さんは、米軍が撮影した航空写真を丹念に分析し、横浜市内に配置されていた12か所の高射砲陣地のうち9か所を特定したといいます。
記憶と記録をつなぐ
横浜線の小机駅周辺には、中世の城郭である小机城が残っています。この地域にも、戦時中に照空隊陣地が存在していたことは地図資料から確認できますが、具体的な場所については長らく特定できずにいました。
そこで古屋さんは小机小学校の校長に相談したところ、地域の歴史に詳しい「小机城のある町を愛する会」会長の木村光義さんが紹介されました。さらに木村さんを通じて、藤沢フユ子さんという90歳の女性に話を聞くことになります。藤沢さんの実家は、かつて小机照空隊陣地の真正面にあったといいます。
藤沢さんは終戦の年に小学校5年生でした。実家から見上げた丘の上には兵舎が建ち、その向こうから照空灯の光が夜空を照らしていた光景を、今も鮮明に覚えているといいます。照空灯の光がB29に当たり、そのまま飛行機を追いかけていく様子を目の当たりにしたという記憶でした。
藤沢さんの案内により、照空隊陣地の場所が特定されました。現在、その一帯は畑となっており、照空隊陣地の痕跡は地表から確認することはできなくなっています。
こうした戦争体験者の方の記憶は、発掘や資料調査と並ぶ重要な歴史資料です。戦後80年を迎え、聞き取り調査はすでに難しくなっていると語られることもありますが、実際には今なお貴重な記憶を持つ人が存在しています。
「戦争の記憶というのは、いろんな形で存在するものです。そういったものを掘り起こし、市民の皆さんに伝えるのが我々の役目だと思っています」(古屋さん)

横浜都市発展記念館 特別展「戦争の記憶 横浜と軍隊の120年」
【開催期間】2026年1月24日(土)から2026年4月12日(日)まで
【開館時間】午前9時30分~午後5時(券売は閉館の30分前まで)
【休館日】毎週月曜日(月曜が祝休日の場合は開館し、翌平日が休館)






