「恥ずかしい」「申し訳ない」「私なんて」......。そんなマイナスな感情に囚われて悩んでしまったとき、どのように対処すれば良いのでしょうか。心理学者の岩壁茂さんが、自分を嫌いにならないために、恥と罪悪感を手放す方法をご紹介します。(取材・文:林加愛)
※本稿は、『PHPスペシャル』2023年10月号より内容を抜粋・編集したものです。
2つの感情は、似ているけれど違う
「恥」は、喜怒哀楽と同じくらい根源的な感情です。人間をはじめとする哺乳類に、本能的に組み込まれたもの――これを心理学の世界では「基本感情」と呼びます。
群れで生きる生物は、そこでの決まりごとや価値観から外れると孤立します。動物社会において、孤立は「死」とほぼイコール。
また、群れの中でも「みにくいあひるの子になってはいけない」という意識が、孤立を押しとどめるブレーキになっていました。恥は、生物が生き抜くために必要な感情であるとも言えるでしょう。
現代でも、私たちは何らかの社会に属して生きています。そのため、「自分は周りから変だと思われているのではないか」などと感じたとき、集団から孤立しないように、即座に「恥ずかしい!」という思いが湧くのです。
恥と似た感情に「罪悪感」がありますが、こちらは基本感情ではありません。恥は幼い子供でも感じますが、罪悪感は、ある程度成長してから起こるもの。その人が培ってきた価値観や経験が引き起こす感情とも言えます。
罪悪感は長らく(とくに西欧では)、悪い行動を「修正する」感情だとされてきました。つまり、よりよく生きるためにプラスの作用をもたらす、と考えられてきたのです。
ここまでに説明したように、恥も罪悪感も、悪い面ばかりではないと思うだけで、少しはラクになるのではないでしょうか。ただし、強すぎる恥感情や罪悪感を持ち続けることは危険。「自分はダメだ、情けない」という自己否定に陥ってしまうからです。
皆さんは、不要な恥や罪悪感に駆られていませんか? ならば、その重荷を少しずつ下ろしていく工夫をしてみましょう。
プラスの自意識とマイナスの自意識がある
恥も罪悪感も、「自意識感情」です。繰り返しになりますが、ある程度は必要なもの。自分を客観的に振り返って「恥ずかしい」「悪かった」と思うからこそ、人はルールやマナーを守れるのです。また、「自分にとって大事な秘密」をあけっぴろげに話さない、といったプライバシーに関わる自衛もできます。
しかし、自己否定が伴ってしまうなら、それは「マイナスの自意識」。手放したほうが賢明です。周囲から受ける不当な偏見や、深刻なものでは、いじめや虐待が原因となっていることもあります。自分が抱いている感情が、プラスなのかマイナスなのか、今の状況を振り返ってみることも大切です。