認知症や軽度認知障害(MCI)の方でも、継続的な運動によって認知機能の回復が期待でき、特に有酸素運動と食事療法を組み合わせることで、計画性や段取りといった実行機能の改善に効果があることが、デューク大学の研究で示されています。このため、医師の長尾和宏さんは認知症予防のためにウォーキングを勧めています。本稿では、「脊椎ストレッチウォーキング」の方法を書籍『歩く人はボケない 町医者30年の結論』よりご紹介します。
※本稿は長尾和宏著『歩く人はボケない 町医者30年の結論』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
筋肉は脳にメッセージを送っている
歩行と脳が深く関係していることはあまり知られていません。
一般的には、歩行と脳は別のものとして捉えられています。医療分野でも、脳は脳外科、神経内科、精神内科と細分化され、歩行を運動と捉えるならば整形外科が担当するといった形で、とにかく細かく分けられてしまっています。歩行と脳機能の両者を一体で診てくれるような診療科はありません。
まず歩行と脳の関係を知ってください。脳が筋肉に命令を出すことによって歩くことができるという一方的な関係だけではなく、歩くことによって筋肉から脳や腎臓などにミオカインと呼ばれる「メッセージ物質」が送られています。脳が筋肉からのメッセージを受け取るという、双方向の関係にあります。
メッセージ物質とは、細胞から分泌されるサイトカインと呼ばれるホルモンと同じような物質です。かつて『NHKスペシャル』で運動について取り上げられたときに、「メッセージ物質」という言葉が使われました。
おそらくNHKによる造語だと思われますが、サイトカインという言葉では視聴者に伝わりにくいので、わかりやすくメッセージ物質と言い換えたのでしょう。メッセージ物質という言葉の通り、細胞や組織や臓器から発せられるさまざまなメッセージを伝える物質です。
歩行で筋肉に負荷がかかると、筋肉からメッセージ物質が出され血流に乗って脳に届きます。脳と筋肉は盛んに会話しています。仮に脳を親分、筋肉を子分にたとえるならば、親分が子分に「こうやって動いてくれ」と命令を出します。子分はその通りに動きますが、子分の側からも親分に対して「親分も頑張ってください」という応援メッセージのようなものを送ります。
そうすると、親分は「よっしゃ、もうちょっと頑張るわ」といった形で、いっそう頑張るというような感じをイメージします。要は適度な歩行により、脳と筋肉が励まし合うような関係性が構築されます。
臓器と臓器の会話を「臓器相関」と呼びますが、筋肉と脳、骨と脳も会話をしながら生体は良好に保持されます。
胸を張って歩くと、歩く効果が高まる
歩行習慣が身につくまでは、時間も、速度も、気にせずに歩いてください。そして歩行の習慣がついたら、次は姿勢を気にしてください。
背筋を伸ばし、胸を張り、肘を少し曲げて引くのを意識しながら歩いてみましょう。
「脊椎ストレッチウォーキング」をお勧めします。これも胸を張って歩く方法の一つですが、胸を張るというよりも、背筋により意識を置いた歩き方です。パリコレクションのモデルさんになったようなつもりで、背筋を伸ばして歩きます。
この脊髄ストレッチウォーキングのポイント①は、下腹を下から持ち上げるようにして歩くこと。ポイント②は、頭頂部をひもで引き上げられたようなイメージで、背筋をしっかり伸ばし、軽く胸を張ること。
ポイント③は、膝を軽く伸ばし、足先を引き上げ、かかとから着地し、着地したかかとの上に素早く腰を乗せていくことです。
20年前、兵庫県尼崎市医師会が主催して、武庫川の河川敷を市民たちと脊椎ストレッチウォーキングをするというイベントがあり、医師として出務しました。約30分間の自由ウォーキングの前後の血圧を測定してみると、全員が歩行前より10〜20くらい下がっていました。「歩行だけで血圧がこんなに下がるのか」と驚きました。
ウォーキングで副交感神経が優位になり、リラックス状態になったために血圧が低下したと思われます。
人間は年齢とともに少しずつ前屈みになってきます。60代で少し前屈みになり、70代でさらに前に曲がり、80代ではさらに曲がってきます。シルエットクイズのように、立ち姿を見ただけで、その方が何歳くらいか誰でもだいたいわかりますよね。
背筋を伸ばしながらの歩行は、姿勢年齢を若く保つことになります。